第9章 春高!
「で、潔子さんの返事は?」
「いいえ」
縁下さんが答えてくれる
「いいえ?!返事がいいえだけですか?!アハハハ!」
「くぉら橘!喜びすぎだろ!…うう…明日のこと考えっと落ちつかねぇ…ちょっと散歩してくる」
恥ずかしそうにそう言うと、田中さんは部屋から出て行った
「大丈夫かアイツ、一途すぎてストーカーとかになんないかな」
成田さんが言うと縁下さんが
「それは無いんじゃない?他人の感情はやたら察するし、清水先輩が本気でやめてって言ったらやめる気がする、そんで旅とかに出る」
と答えて、確かに!とみんなで笑った
「…バカだなっていつも思うけど、実は凄えよな
シンプルとか一途とかって多分すっげー難しいじゃん」
縁下さんはそう言うとチラッと私の方を見る
「…さて、俺は橘さん部屋まで送ってくるよ」
私は先輩たちにおやすみなさいをすると、縁下さんと部屋を出て廊下を歩く
「すみません、送ってもらうほどの距離じゃないのに」
「ううん、大丈夫」
「縁下さん、私…潔子さんは勝てない相手じゃないと思います」
「田中がいる時に言ってやってよ」
「ダメです、すぐ調子乗るし」
「ハハッ、確かに」
「でも…あんな風に一途に思われて嫌だと思う人いないですよ」
そう言うと少し沈黙があって、縁下さんが立ち止まる
「橘さんは?」
「え?」
「橘さんも一途に思われたら嬉しい?」
「…それは…はい」
「じゃあ俺も田中を見習って、勝てない相手に挑んでみようかな」
そう言って縁下さんは妖しく微笑む
いつも優しくてみんなのお兄ちゃんな縁下さんとは違う表情で、ドキリとする
「橘さん、俺真剣に君のことが好きだよ」
「!」
「でも橘さんが月島のことを好きなのは分かってるし、君を困らせるつもりはない」
「…縁下さん」
「それでも俺も田中と同じで、勝てない相手だからって簡単に諦めらんないから」
迷いのない目で真っ直ぐ見つめられて、私は何て答えればいいのか分からなくなって黙り込む