第9章 春高!
「…あ、その…叶歌さん、ごめんなさい。覗くつもりはなかったんですけど」
「ううん」
そう答える叶歌さんの瞳は少し赤い
「今の人は…」
「従兄弟なの」
「そうなんですか」
「こっちに住んでてね、試合の前になると差し入れとか持ってきてくれるんだ」
…
沈黙が流れた後、叶歌さんは私の方を見据えて
「歩ちゃん、正直に答えて欲しいの…龍ちゃんの心に決めた人って、もしかして歩ちゃん?」
と訊ねる
「は?…えっと…それは絶対ないです、100ないです、言い切れます」
「えええ?!そんなに?!」
「はい、ぜっったいないです」
「そ、そうなの?…歩ちゃんがさ、烏野のバレー部の誰かと両想いだと思ってたって、言ってたじゃない?だから…もしかしてって」
「ちなみに、私の好きな人も田中さんではないです」
「そんなはっきりと…でもよかった。こんな可愛い子がライバルじゃ、私勝ち目ないもんね」
「そんなことないです、叶歌さんは美人やし、それだけじゃなくてよく知りもしない私なんかにも親切にしてくれた優しい人です」
「でも…龍ちゃんには心に決めた人がいるんだよね」
視線を落としながら叶歌さんが呟く
私の脳裏には潔子さんの顔が浮かんで、思わず
「…はい」
って返事してしまう
叶歌さんは驚いたように私の方を見て
「龍ちゃんの好きな人、歩ちゃんも知ってる人なの?」
と言う
「…はい」
「そっか…素敵な人?」
「それはもう…」
「そうなんだ…」
「…私、叶歌さんみたいな素敵な人が田中さんを好きになる理由少し分かります。田中さんってね、普段は騒がしいし、勉強もあれですけど…」
「騒がしくて勉強もアレなのは、小学生の頃から変わんないんだね」
と言って叶歌さんは笑う
「でもバレーしてる時の田中さんって本当男前なんです。後輩の面倒見もすごく良くて、自分に厳しいのに他人には優しくて…それって誰にでも出来ることじゃないと思うんです。うちのメンバーは大体、みんな自由で自分のことしか考えてないから…」
「なんか嬉しい、龍ちゃんが高校でどんな風なのか知れて」
「こんな言い方おかしいですけど…叶歌さんは良い男を好きになったと思います」
「ハハッ…そうかな?歩ちゃんは?」