第9章 春高!
「今の私も脈なしかなぁ〜」
これを田中さん流に言えば、私はまだ生まれてないってことか
夜ご飯を食べ、少し夜風に当たろうと思い立つ
夜風って言っても1月の夜風やから、ノースフェイスのダウンを着て宿の外に出る
今日もツッキーは、私のこと関係ないって言ったし…
そんで明日は稲荷崎との試合やし…
「ハァ…」
溜息をついて顔を上げると
あ、あれは…田中さんと叶歌さん?!
こんな所で逢引き?!
私は木の影に隠れながら2人の様子を見守る
会話の内容はよく聞き取れないけど、叶歌さんが何かを話しかけていて、途中で田中さんが急に
「すっすまん!俺には心に決めた女性がいるんだぁ!」
と大声で叫ぶ
!!
次の瞬間、背の高い歳上の男性が叶歌さんの前に現れた
ん?
これは、修羅場?!
男性と叶歌さんの親密そうな姿を目の当たりにした田中さんは
「聞かなかったことにしてぇぇぇ!!!」
と言いながらこちらに走ってくる
咄嗟のことで隠れきれず、凄いスピードで向かってくる田中さんと目が合って
「橘!!テメェこんなとこで覗きとは、いい度胸だな!」
「ののの、覗いてませんよ!たまたま外に出たら田中さんと叶歌さんがっ!」
「ダウンまで着込みやがって張り込む気満々か!」
「何で私が田中さんをわざわざ張り込む必要性があるんですか!」
「あ、言ったな?!俺のことなんか興味ないってか?!知ってますよ〜どうせ俺なんか、今日生まれたばっかで、昨日まで生きてすらなかったんだからな!」
「何言ってるんですか!それに関してはさっき木下さんに、田中はとっくに生きてる!って言われてたじゃないですか!」
二人で何の生産性もない不毛な言い争いを繰り広げ、田中さんはため息を一つつくと、宿の中に戻って行った
「別に覗いてないし」
独り言を言って、ふとさっき田中さん達がいた方向を見ると叶歌さんとバッチリ目が合う
いつの間にかシティボーイは消えていて、こちらを向く叶歌さんに手招きされた