第9章 春高!
ー縁下side
「で、どうしたの?」
ペットボトルのお茶を差し出しながら、優しい口調で訊ねる
「どうってほどでもないんですけど…あの…なんか今朝からツッキーに避けられてる気がして」
「月島に?」
「はい、最初は緊張してるのかなって思ってたんですけど…」
「うーん、確かにウロウロしてて落ち着きはなさそうだったから、日向影山のお守りに行かせたんだけど」
「え?そうなんですか…ツッキーが走りに行くとか意外」
「走るっても、月島は宿の自転車借りてだけどね」
月島に会うためにウロウロしてたのか…
彼女と偶然会えたことを喜んでいた俺は、少し複雑な気持ちになる
「あ、自転車で思い出したけど、プレゼント交換で縁下さんに貰ったキーホルダー、ちゃんとつけてますよ」
そう言って彼女はニコリと笑う
「そっか、嬉しいよ。あれ、橘さんに当たればいいなって思いながら選んだから」
「そうなんですか?ありがとうございます」
橘さんはペットボトルのお茶を一口飲んで、答える
横顔を見つめる
お風呂上がりの無防備な姿
いい匂いがするし…
少し毛先に水滴がついている
俺はその毛先に触れながら
「こら、きちんと乾かさないとダメだろ?まだ少し濡れてる」
と言うと、彼女は恥ずかしそうにこちらを見る
こんな風に髪を濡らしたまま、慌てて月島を探しにきたって言うの?
「橘さんは…月島のことが好きなんだね」
そんなこと言うつもりなかったのに、気付けばそう言ってた
彼女は驚いたように目を見開いて、それから少し頬を染めて
「…はい」
って答える
ああ
月島のことを話す時
君はそんな顔をするんだね
「…何があったか知らないけど、多分思ってるより月島は、橘さんのことが好きだと思うよ」
「え、そうですか?縁下さんから見てそう思います?」
「うん…同じ子を好きな俺が言うんだから間違いないよ」
そう言うと彼女は、首を傾げて
「同じ子…同じ子?え?どういう…」
「全部言わせんなよ」
真面目な顔で見つめると
橘さんは俺の言葉を理解したのか、赤面したまま固まっている