第9章 春高!
「傷…?」
やっちゃんが首を傾げる
「昔、陸上のハードルやってたんだけど、私人一倍コケてさ…結構痕残っちゃってて」
「ハードル!かっこいい!じゃあ…勲章の傷ですね」
って言ってからまたやっちゃんが
「スミマセン!傷が勲章て戦場か!歩ちゃんじゃあるまいし!」
そう言って湯船に顔面を打ち付ける
「待って!私唐突にもらい事故!」
やっちゃんを湯船に沈めてやろうと、じゃれあっていると潔子さんの笑い声がする
「ふふ、何だろ」
潔子さんが裸体で微笑んでおられる
あかん、思考が田中さんに…
「中学の陸上部は大所帯で、私は話すのも得意じゃないから特別親しい後輩が出来たこともなくて…前も言ったけど、2人が入ってくるまではマネージャーも1人だったし、こんな風に話せる後輩が出来たの初めてでなんか嬉しい」
「潔子さん…」
「清水先輩…」
「そしてもう残り少ない」
潔子さんの口から改めてそう言われて、ズシンと心にくる
まだ一緒にいたい
あんなに浅草寺で祈ったのに…
時の流れは残酷だ
決して止まってはくれない
「初戦勝って、明日の夜またこのお風呂に入りに来よう」
潔子さんの言葉に、やっちゃんと顔を見合わせてコクリと頷く
「ハイ!」
お風呂から上がって、宿の玄関に向かう
理由は…
今日一日ツッキーとほとんど話してないから
マネージャーと選手としての受け答えは一応してくれてるけど、それ以外に話しかけられもしないし…
ご飯の時も…
なんかしたんかなって思うし、明日微妙な感じで初戦迎えるのもなぁ…ってソワソワして、何となく玄関付近をうろつく
「橘さん?」
「ひぇっっ!」
後ろから声をかけられて挙動不審になりながら振り返る
「縁下さん…びっくりしました」
「ごめんごめん、さっき日向たちが走りに行ったんだけど、他のやつらも勝手気ままに飛び出て行かないように見張ってるんだよ」
「さすが、もうすっかり次期キャプテンですね」
「で、橘さんは何してたの?君も落ち着かない?」
「あ…まぁ」
「じゃあアイツらが戻ってくるまで、ソファで少し話でもする?」
「はい」