第9章 春高!
民宿に着いて荷物を降ろし終わると、烏養コーチに呼ばれた
「橘…もし初戦勝ったら、次はその…お前の仲間と戦うことになるだろ」
「仲間?私の仲間は烏野のみんなですよ」
「いやまぁそうだけど…お前は大体いつもアイツらより勇ましくて男らしい部分があるから、つい頼っちまうけど…昔の仲間を売るような真似はしなくていい。稲荷崎の情報は俺が自分で調べてるから」
「でも私は今、烏野の一員です」
「橘、無理になかったことにしなくていい。稲荷崎にいたことも含めてお前っていう人間だ」
「コーチ…」
「だからあんま気に病むな、稲荷崎の裏情報教えないってことが、別にアイツらを裏切るってことじゃねえからな」
そう言って肩をポンと叩かれる
みんなの元に歩いていくコーチを見ながら
それでも…
戦になったら実家でも敵とか大見得切ってた自分が恥ずかしくなる
練習が終わり、宿に戻る
ご飯を食べた後コーチが全員を集めて、何やら見てもらいたいものがあると言う
「なんですか?」
みんなが不思議そうにしているとコーチが説明しはじめる
「これは滝ノ上電器店渾身のORESUGEE動画だ、今までのお前達のファインプレー集だ、全員分あるぞ」
映像や音楽の力を借りて、ベストな自分を脳に焼き付ける、ベストな自分を想像出来る様にするというのが目的のようだ
選手達が自分や仲間の動画を見ている間に、マネージャーの3人で浴場に向かう
早朝からのバス移動、休む間もなく慣れない場所での練習と一日中動き続けてきたから、お風呂のお湯が染み渡る
ブクブクと顔の真ん中まで湯船に浸かってボケーっとしてると、やっちゃんが潔子さんに向かって
「清水先輩は夏でも制服に黒タイツですよね?暑くないですか?」
と、唐突に聞いて、その5秒後に
「すみません、人様の服装に意見など!走ってきます!」
と全裸で湯船から飛び出す
確かに…制服姿の潔子さんはいつも黒タイツ
「てっきりノヤさんや田中さんの視線から生足を守るためかと思ってました」
私が言うと潔子さんは、それもあるけどって笑いながら続ける
「私、脚に傷が多くって何となく隠してるうちにタイツに慣れちゃって」