第8章 それぞれの春高まで
ー月島side
何が起きたのか理解できない
自分のモノじゃないみたいに心臓の鼓動が速くなる
いよいよ明日東京に行くって言う最後の練習の日
山口、日向、谷地さんと帰りながら
「あれ?歩は?」
歩がいないことに気づく
「あ、歩ちゃん明日バスに積むもの確認して帰るって言ってたよ」
谷地さんが答える
「そういや影山もいないけど、どうしたの?」
山口が訊くと、日向は
「ボールの感覚しっかり覚えときたいってさ、俺も残ろうと思ったけど、コーチに見つかって『お前は家が遠いし、明日も早いからさっさと帰れ』って言われてよ」
と不服そうに答える
嫌な予感がした
と言うのも今朝、原田先輩から自転車置き場で歩と影山が手を握りながら見つめ合ってる画像が送られてきて
何かの間違いじゃないのって思ってたけど…
「山口…忘れ物、先帰ってて」
そう言って踵を返し、来た道を戻った
まだ灯がついている体育館、隙間からそっと中を覗くと
歩と影山
遠くて全ては聞き取れないけど、聞き慣れた彼女の声がする
「それから一緒に勉強したり、部活したりしてるうちに、私は影山くんのこと好きやって気付いた」
鮮明に聞き取れたセリフ
あーあ
そういえば歩から決定的なことなんて、何一つ言われてないのに
一人で舞い上がってバカみたい
同じ気持ちだって勝手に思って浮かれて
ほんと恥ずかしい
歩がボトルをぶち撒け、それを拾いながら2人の距離が近づく
やや間があって
「もちろん!改めてよろしく」
そう言って歩が影山の手を握る
そもそも歩は影山のことが好きで
手作り弁当持って勉強教えてって…やってたわけだし
それでも僕がしつこいから歩は付き合ってくれてただけで
本当はずっと影山のことが好きだったのかもしれない
2人がこちらに近づいてくる気配がして、僕は咄嗟に身を隠した
僕に気づかず2人が並んで出てくる
「…じゃあ俺たちだけの秘密だな」
影山がそう言うと、歩はニコリと微笑みかける
見たくなかった
何が起きたのか理解できなかった