第8章 それぞれの春高まで
「だって帰省の前日に、急に黒尾さんが明日東京で…とか言うから。でもなっ、リエーフ君のお姉さんのアリサさんもいたし、ほらこれ見て!」
私はスマホを取り出して、雷門の前でみんなで撮った写真を見せる
「ふーん…楽しそうだね」
「えええ、なんか怒ってる?」
「別に怒ってないけど…なにこの格好?」
「え、着物?!おかしい?!」
「…逆…」
「ふぇ?」
「似合っててムカつく」
「なんそれ!やっぱ怒ってるやん!」
「怒ってないし…で、浅草寺とか行ったわけ?」
「そうそう!あの寺な!めっちゃ太っ腹で、何にでもご利益があるんやって!つい欲張って色んなお願いしてきたわ!」
「へぇ…例えば?」
「もちろん春高で全国制覇出来ますように!とか」
「他は?」
「えーっと…もっとみんなと一緒にいたいとか」
「ふーん、他は?」
そうやって聞いてくるツッキーの顔は、意地悪な顔してる
コイツ…分かってて聞いてる
「もう、教えへんっ」
「何で?」
「何でってだから…その…ご本人にまつわることやから」
「本人って?僕ってこと?」
そう言ってニヤニヤしながら見下ろしてくる
ううう
この意地悪メガネ!
「言わへんっ」
そう言ってプイとそっぽを向く
「へぇ、まぁいいけど…」
真っ赤になってるであろう私を見て、楽しんで満足してる悪趣味なやつ
そうこうしてる間に地元の有名な神社に着く
結構な段数の階段を、ツッキーがスーツケースを持ち上げて上がってくれる
「あちゃーこれ先に置いてきたらよかったなぁ、ごめん」
「いや、大丈夫」
「しかも神社なんか砂利だらけやし、ガガガガってなるやん…ほんまごめん」
「別にいいって、置きに帰ってる時間が勿体ないし」
「そんな?」
「そんなでしょ、あのスパルタバレー部、滅多に休みないんだから」
「でもこれからずっと一緒やろ?」
…あれ
ツッキーが黙ってる
私なんかおかしいこと言った?
チラッとツッキーを見上げると真っ赤な顔して、私と逆方向向いてる
耳まで真っ赤
「君さぁ…ほんと無自覚で急にそういうこと言うのやめてくんない?」
明後日の方向を向いたままツッキーが言う
「な…え?!私なんかおかしいこと言った?」