第8章 それぞれの春高まで
ー歩side
1秒でも早く会いたくて、スーツケースを担いで一段飛ばしで階段を駆け上がる
改札の中からでも目立つ長身
いつもの制服姿、いやほとんどジャージ姿とは違う大人っぽい装いにドキっとする
「おまたせー!」
努めて平常心で話しかけてるのに、息を切らして駆けつけた私に
「そんなに僕に早く会いたかったのかなって」
なんて言ってくるし…
気持ちを見透かされて、恥ずかしくてついつい背中をグーで小突く
意地悪ばっかり言うけど、さりげなく荷物を取ってくれてスッと左手を差し出される
うう…
ツッキーは何でこんな余裕なんやろ…
「歩、昨日電話した時神社にいたって言ってたけど」
「あ、うん!てかビックリするわ!ツッキーは、新年なんて日付が一日変わるだけで何をそんなにはしゃいでるのか理解に苦しむ、とか言いそうやん」
モノマネしながら言う
「だからそのモノマネやめてよ…てかまぁ、去年まではそう思ってたけど…なんか今年は歩に一番に言いたくなった」
ナニソレ
嬉しすぎるんですけど
満足そうにニコニコしてると
「で、君は誰と神社に行ってたわけ?」
「あー、向こうのバレー部のキャプテン」
「キャプテン…て男?」
「あ、うん」
「2人で?」
「そうやけど、いやまぁたまたま友達の家から送ってもらう途中で新年になりそうやったから寄って帰っただけやねんけど」
あれ?
なんで私こんな言い訳みたいに
チラッとツッキーを見ると、明らかに不機嫌な顔をしてる
「え!ちょっと待って!そんなんじゃないねん!北さんは!」
「北さんねぇ…」
「別に2人で遊んでたわけじゃないから!それにツッキーから電話かかってきた時も出たらいいって言ってくれたし」
「ふーん…」
「北さんは私にとって大地さんみたいな人!頼れるお父さん的な」
「まぁ…それならいいけど。てか歩の無自覚は今に始まったことじゃないし」
「…無自覚ってこないだ黒尾さんにも言われた」
「今度は黒尾さん?!いつ話したの?」
「いや、別に黒尾さんと2人きりじゃないで?音駒のみんなと遊びに行った時に…」
「それも初耳なんだけど、君はほんと叩けば埃しか出てこないね」