第8章 それぞれの春高まで
ー月島side
歩がもうすぐコッチに着くって言うから、駅まで迎えに行くことにした
午前中、日向から初詣に誘われたけど断った
何で一日に二回も初詣に行かなきゃなんないのさ
それで言うと昨晩、歩にあけましておめでとうって電話したら、神社にいるとか言ってたけど
向こうの風習では年越しを神社でしたりするのだろうか
それとも
誰かとわざわざ初詣に出かけてたか…
いつだったか歩が
信じて裏切られるのが怖いって言ったことがあったけど
その元凶となったヤツと会ったりしたのだろうか
ふと月バリで見た、宮侑の顔がよぎる
まだそうと決まったわけでもないのに
駅の改札の近くで壁にもたれて歩を待つ
冬は寒いから好きじゃない
本当なら通学の時に着ているファー付きのカーキのコートを着たかったけど、せっかく歩とデートだからと黒いウールのコートを着てきたから首元が寒い
改札から溢れる人の中から歩を見つけた
向こうも僕に気づいたみたいで、顔を綻ばせ大きく手を振る
ほんの少し離れてただけなのに、久しぶりに会うような気がして少し照れ臭い気持ちになる
彼女はスーツケースを引っ張りながら、小走りで近づいて来る
「おまたせー!」
スーツケースを担いで階段を駆け上がってきたのか、かなり息が上がってる
「ねぇ…階段あがってきたの?それ担いで」
「え、あぁ〜だってそれが最速やったし」
息を整えながら答える彼女を見てフフッと笑うと
「なによ」
歩が訝しげに訊ねる
「いや…最速って…そんなに僕に早く会いたかったのかなって」
意地悪く言うと、彼女は頬を赤らめながら
「ちがっ…もうすぐそういうこと言う!」
って言って僕の背中をグーで小突いてくる
そんな軽口叩きながら
早く会いたかったのは僕の方
歩はヘアメイクの仕事をしている従姉妹にしてもらったと、恥ずかしそうに言ってたけどいつもと違うヘアスタイルで薄ら化粧もしていて、私服も見慣れないし…
油断したらニヤけそうになるのを必死で堪えて、彼女の手からスーツケースを取る
スーツケースを右手で引きながら左手を差し出すと歩は照れながら、僕の左手をそっと掴む