第8章 それぞれの春高まで
「そうか、ほなよかったわ」
「私の稲荷崎での2ヶ月は、ほとんど北さんとの思い出だけです」
そう言って眩しく笑う彼女の顔が焚き火に照らされる
歩のためなんかやない
俺が一緒におりたかったから送って帰ってただけや
あかん
好きや
半年経っても全く色褪せへん
あの日…歩が転校するって、ここで俺に言うた日…
ほんまは言おうと思ってたんや
俺は歩のことが…
「あの時ほんまは…
「あっ、北さん!0時回りましたよ!あけましておめでとうございます!」
話始めようと口を開いたけれども、歩の声にかき消される
「あ、うん…あけましておめでとう」
「…さっき何か言おうとしてましたか?」
「いや、ええんや」
〜♪
「あ、電話…」
歩のカバンの中で携帯が鳴ってる
彼女はそれを取り出して、一瞬画面を見て固まる
「出てええよ」
そう言うと彼女はごめんなさいと謝って、くるりと俺に背を向け通話し始める
「もしもし…あ、うん…あけましておめでとう、いやびっくりするやん、新年とかめっちゃ興味なさそうやし、寝てると思ったら律儀に電話してくるし…アハハ!うん…今外、神社におる…うん、また明日、え?今日か…帰ったら連絡する、うん…はい」
いつもより少し高い声で話す歩
背中越しでも分かる嬉しそうな姿
きっと、電話の相手は…
「…彼氏か?」
あれから半年経ったんや
彼氏がおっても何もおかしくない
歩は振り向くと、照れたような顔をしながら
「え?!あ…彼氏…ではないですけど…」
と呟く
「好きな奴か」
と訊くと歩は、頬を赤らめながらコクンと頷く
半年前、侑をまだ忘れられんかった時の歩の姿は痛々しかった
でも今こんな表情を出来るのは
幸せやってことなんやろう
その顔をさせられるのが自分やないのは残念やけど…
ええ男と出会ったんやな
「もう遅いしお参りして帰ろか」
そう言って焚き火にあたっていた彼女の手を引く
これぐらいは許されるかな
「歩、俺はお前より2年はよ生まれて2年はよ大人になる…せやから何か悩んだら、いつでも言うてき」
そう言って繋ぐ手に力を込めた