第8章 それぞれの春高まで
そんなおもろい話でもないと思うけど、歩は真剣な顔して俺の話を聞いてくれる
「それ…うちの監督もよう言うてます」
「歩も言うとったやろ?隠れてポテチ食うなって侑に」
「アイツすぐ隠れてポテチ食べるんでね」
「まぁたまにはええと思うけど、人の身体は食うたもんで出来てる。そやから俺がちゃんと育てた米で、スポーツやる人やこれからスポーツやる子供らの身体が作られていったらええなって思ってんねん」
そう言ってチラッと歩を見ると、ハッとした表情をしてる
「北さん…ありがとうございます」
「…何でありがたがってるん?」
「私ね、みんなには高校卒業してもバレーしててほしいって、どっかで思ってたんです。いつまでもバレーに関わっててほしいって…でも、なんか今北さんの話聞いて、ちょっと考え方改めました。バレーに直接関わってなくても、色んな仕事が色んなことに繋がっていくんやって」
「…せやな」
いつも天真爛漫な彼女が真面目な顔して言う
「ちょっと怖かったんです…みんな卒業して、大人になって…この毎日がなかったことになるんちゃうかって…」
「なかったことになんかならんやろ、なんや歩、将来について悩んでんのか?」
「はい…まだ1年生やからって自分に言い聞かせてるけど、やりたいこととか見つからんくて…ちょっと焦ってます」
「そうか…歩は真面目やな」
「え?」
「もうちょっと肩の力抜け、別に高校3年間でやりたいことなんか見つからんでも死なへん。大人になってから見つかることもあるかもしらん、俺は何かを始めんのに遅すぎることはないと思ってる、ゆっくり探したらええんちゃうか」
「北さん…北さんはいっつも私を救ってくれますね」
「救う?また大袈裟やなぁ」
「大袈裟ちゃいますよ…私ね、ほんまは稲荷崎行くのもバレー部のマネージャーやんのも辛かったんです。私が侑と付き合ってたんは誰かから聞きましたか?」
「うん、知ってる」
「侑と通うはずやった通学路も、侑がおる体育館も…いらんことモヤモヤ考えてしんどくて…だからマネージャーの仕事に没頭して、考えんようにしてたんです」
「ほんで、毎日遅くまで残ってたんやな」
「はい…で、そんな時北さんが声かけてくれて、毎日一緒に帰ってもらえて…ほんまに救われました」