第8章 それぞれの春高まで
だって通おうと思えば通えるのに
歩は自分の意思で宮城に行くって決めたんやから
…俺ではアカンかったんやろ
「そやし…部活もやめます、中途半端になってすみませんでした」
「…いや橘は、ようやってくれた…今までありがとう」
「あ、そや…昨日ゴミ捨てしてて言おうと思ってたんですけど、隠れて部室でポテチ食べんなって侑に言うといてください。アイツ目離したらすぐそういうことするんです…部室なんてただでさえ不衛生やのに」
そう言う彼女を見て、ああ…この子はまだ侑のことしか見えてないんやって気付いた
「わかった、言うとく」
「そう言えば…北さんも何か話あるって言うてませんでした?」
「え、言うてた?」
「言うてましたよ!」
「何やったかな…そや、大したことやないけど俺も橘のこと、アラン達みたいに歩って名前で呼んでもええかな、って聞こうと思ってて…」
慌てて、なんかよう分からんことを言うてみる
「え、そんなことですか?どうぞどうぞ!名前で呼んでください」
笑いながら彼女が言う
でももう、俺の前からおらんくなるんやろ
歩って呼ぶこと…なくなってまうやん
「…歩」
あの日、転校を告げられた神社の前で彼女を呼び止める
「時間…ちょっとええか」
「あ、はい…ちょっとぐらいなら」
「もうすぐ年明けるから、そしたらここで初詣してから帰らへんか?」
「いいですよ」
大きい神社ではないけど、大晦日ということもあってライトがついていて、人もまばらにいる
境内の片隅では焚き火が焚かれていて、歩はそこに近づきながら
「北さん、こっち暖かいですよ」
と手招きする
俺らは並んで、掌を焚き火に向けた
「あともう少しで新年ですね、そういえば北さん卒業したら進路どうするんですか?バレーは続けるんですか?」
「いや…俺のバレーは高校で終わりや」
「そうですか」
少し残念そうに彼女が呟く
「でもまぁ…バレー…というかスポーツやってるやつらの力になるような仕事しようと思ってる」
「…と言うと?」
「農家やる」
「農家…?」
「おう…アスリートは身体が資本や、ちゃんと練習してちゃんとした飯食うて、どんどん強くなっていく」