第8章 それぞれの春高まで
「ええよ別に、ほんでついでに送ったるわ」
「いや、それこそ悪いです。ってこれも結果、毎日そうなってますけど…」
「せやろ?ほな今までと何も変わらんやん、俺が呼びにきた時に橘が1人で残ってたら送って帰る」
「ありがとうございます」
「それに、こんな時間に女の子1人で帰らせたら…」
「北さんがおばあちゃんに怒られますもんね!ではお言葉に甘えて」
そう言って彼女は屈託のない顔で笑う
アランや治に向ける、打ち解けた笑顔
その一員に俺もなれた気がして嬉しかった
そうして一緒に帰ることが多くなって、俺らは色んな話をした
歩は頭も良いから、色んなこと知ってたし、感心することも多かった
そうかと思えば、たまに抜けてて放っておけへん部分もあって
気付いたらどんどん好きになってた
侑の元カノやって分かってても、どうしようもないぐらい好きになってた
まぁ2人が付き合っとったんなんて歩が高校入る前の話やし…
しばらくしてインハイの予選が始まって
俺は兵庫県代表なったら歩に気持ちを伝えようって思ってた
ーやのに
ある日いつものように一緒に帰り道を歩いてると、近くにある神社の前で
「北さん…話があります」
って突然歩に言われた
「おう、俺も話したいことあんねん」
最初、歩の方から告白してくれるんかと思ったけど、雰囲気的になんかちゃう気がして、自分からはよう言わんかった
あん時、伝えてたらなんか結果は違ったんやろか
「私…
転校します」
「え?」
頭の中が混乱する
意味がわからん
転校するってなに?
どこへ?
「え…いつ、どこに?」
「6月から宮城県の烏野高校ってとこに行くことになりました」
「なんでや?」
「親の転勤です」
それはしゃーない
しゃーないけど…
ふと思った
歩は、ばあちゃん子やって言うてた
「…ばあちゃんも一緒に行くんか?」
「いえ、ばあちゃんはこっちにいたままです」
なら歩はそこにおったらええやん
高校卒業するまでそこから通えばええやん
せめて俺らが卒業するまでおってくれへんか
喉まで出かかった言葉を飲み込む