第8章 それぞれの春高まで
「治?そろそろ私帰るわ、明日午前中にはコッチ出るし」
歩の声がして、思考を遮ぎられる
「そうなん?」
時計を見ると23時を少し回ってた
「年越しして帰らんのか?」
そうするもんやと思ってたのに…
まぁあんまり長居して、侑と会うのが嫌なんか
「ほな、送っていくわ」
北さんが机の上を片付けながら言う
「いや、近いんで俺が送って行きますよ」
そう言うたけど、北さんは
「ええんや、俺も帰るから。それよりそこで転がっとるアラン頼むわ、ほないこか歩」
と言って立ち上がる
ん?
北さんって歩のこと、名前で呼んでたっけ?
「あ、はい。ほなね治、アラン君コタツから出したってな、風邪引いたら大変やから」
2人はそう言って部屋から出て行って、階下でオカンとあいさつする声が聞こえる
昔やったら毎年うちで年越しして、日変わってからオカンが歩を送って行ってたのに…
変わってしもた
何もかも
俺はアラン君をコタツから出してベッドに寝かせる
「おっも…」
年が明けてしばらくして、侑が帰ってきた
「ただいまぁ」
「おう、あけおめ」
「あけおめ…ってうわ!!俺のベッドにアランくんみたいな人おる!」
「いやご本人やし」
「…ご本人か…てかコッチの年越しパーティー用事あるって断ったん、理由これ?部活の先輩と年越しって色気無いなぁ」
「まぁな」
「こっちは女の子いっぱいやったで?治くんも来たらええのにって言うてた子もおったのに、残念やな」
侑は勝ち誇った顔しながらコートをハンガーに掛ける
「残念なんはお前や」
「…は?」
「歩がおったぞ、さっきまで」
そう言うた瞬間、侑の空気が完全に変わった
「…なんやと」
「だから歩がここにおったて言うてんねん」
「お前、今日まで黙っとったんか!まじで悪趣味やな」
「知らんわ、お前が勝手に年越しパーティーの予定いれたんやろ」
「歩が来るて知ってたら、そんなん行かんわ」
「てか大体お前がおったら歩が来んやろが」
「…まだそんな嫌われてんのか…俺」
「そりゃそーやろ」
「…いっぺん顔見てちゃんと話したい」
「そんなんお前のエゴやん」
「それでも話したい」