第8章 それぞれの春高まで
俺らは散らかった部屋に2人で大の字になって寝転ぶ
「…ほんで浮気してどやってん?ええ気分やったか?」
イヤミったらしく訊いたる
「いや…最悪」
「へー」
「絡みつくような目つきも、人工的な甘い香りも、甲高い声も全部全部気持ち悪かった」
「…それは、もはや相手に失礼やろ」
「でも一番気持ち悪かったんは、歩やない女に触れてる俺自身やったけどな」
「そうか」
「あんなことしても、歩のことをめちゃくちゃ好きで、アイツやなかったらアカンって思い知らされるだけやったわ」
「お前、アホすぎるやろ」
「ほんまアホやわ…歩しかいらんかったのに…」
侑は両手で顔を押さえて、天を仰ぐ
侑がしたことは肯定できんし、歩を傷つけたことは許せん
そやけど、コイツがどんなに歩を好きやったかってのは分かった
「治…悪かったな」
「は?謝るとか気色悪いからやめてくれる?」
「…だってお前は歩のこと…」
「そやで?やからお前と別れた今、俺にワンチャンあるってことやろ?」
「…あほか、今アイツ絶対俺と同じ顔してるお前のことなんか見たないやろ」
「…なんやそれ、連帯責任か」
侑が体を起こす
「俺、歩ン家行ってくるわ」
「今自分で言うてたやん、顔見たくないやろって」
「そやけど…会うてもらえんくても、行く」
そう言って侑は階段を駆け降りていった
「アホか、誰がこの部屋片付けんねん…」
歩、俺のこと好きになったらええのにって思った
そんでそれと同じぐらい
侑のこともっかい好きになったってくれたらええのにって思った