第8章 それぞれの春高まで
ー大晦日の夜
私は宮家で鍋をつついていた
正方形のテーブルで、向かいにアラン君
右に治、左に北さん
「歩〜まじで会いたかった!ほんま寂しかったで!今俺は生き別れた妹に会うた気分や!」
アラン君がテーブル越しに私の頭をワシャワシャと撫でる
「いや、私純粋な日本人やし」
「モノの例えやろがい!」
アラン君まじでツッコミのレスポンス速いわ
「まー確かにアラン君と歩の兄妹は、どっかで遺伝子バグ起きてんな」
言いながら治が具材を鍋に放り込む
「で、お前のほんまの兄弟はどないしてん?」
美しい所作で箸を持ちながら北さんが治に向かって訊く
ここでいうところの治のほんまの兄弟=侑
のことやろーけど
アラン君と治は、それがタブーやって知ってるから、顔を見合わせて苦笑いする
もしかしたら治は、わざわざ侑がおらん日に鍋パ企画してくれたんかもしれん
「知りませんけど、どこぞの女ンとことちゃいますか」
治が答える
そうか、どこぞの女ンとこか…
それを聞いて胸の中がザワザワせーへんと言うたら嘘になる
影山くんが、侑はまだ私のことを…とか言うから、変に意識してしまってたけど…
なんや…別に私がおらんくても
楽しいやってんのやな
微妙な雰囲気を掻き消すように、アラン君が転校先での私の話を聞いてくれたり、思い出話したりして、楽しく時間を過ごした
ガラガラッと部屋のドアが開けられて、宮ツインズの母ちゃんが入ってくる
「みんなアイス食べる?鍋の後のコタツでアイスとか最高やろ!」
と言いながらコタツの上にハーゲンダッツを並べる
「普段ハーゲンダッツとか買わんくせに」
治が言うと
「スーパーで特売やってん!歩ちゃんが来る言うから、お母ちゃん奮発したわ!それにしてもちょっと見ん間にまたべっぴんさんになって!」
宮家の母は関西のおばちゃん特有の早口言葉で捲し立ててくる
「侑のアホがこんな、勿体ないべっぴんさんと別れてしもて…お母ちゃん、歩ちゃんがお嫁に来てくれんの楽しみにしてたのに、あのバカ息子は!この際、顔一緒やし治で辛抱してくれへん?」
おばちゃんが笑いながら言う
「辛抱てなんやねん、どう考えても侑より俺の方がマシやろ」
母と息子の漫才を見ながら苦笑いする