第8章 それぞれの春高まで
ー歩side
影山くんにはやりたいようにやればいいってエラそーに言っといて、自分自身は取り繕った姿を見せてるんは卑怯やと思って、思わず全てぶちまけてしまったけど
影山くんは受け止めてくれた
部活で会うのなんか照れるなぁ
そう思いながらコートの中の影山くんに目をやる
あれからも練習中の影山くんは小難しい顔をしてる
影山くんがあげた、惚れ惚れするほど正確なトスをツッキーが打つ
すると私の隣に翔陽がきて
「月島、黄金川がセッターの時の方が高いとこから打ってた気すんだけどな…どう思う?歩」
と首を傾げる
合宿以降の翔陽はチームメイトをよく見てる
「んー、そうかな?そうやとしても、まぁコガネのが影山くんより背高いし、精度があれやから、それに合わせようとしてるうちに偶然高く跳んでたんちゃう?」
その会話を聞いていた影山くんが、またなにか考え込むような表情になる
「さぁ、片付けて出発すんぞ!」
大地さんの声にみんなが反応する
今日は伊達工との練習試合
準備を整えて、みんなで体育館の外に出る
「歩ちゃん」
靴紐を結びながら考え事をしていると、後ろから声をかけられる
「あ、スガさん」
「ん?どした?」
「最近外で走り回ることが多いからか、スニーカーがボロボロだなって」
中学の時から愛用してきたスタンスミスの紐は切れかかり、底がだいぶすり減っている
白ももはやベージュになりつつある
「本当だね」
「春高も近いし新しいの買おうかな…東京でボロ靴履いてたら絶対黒尾さんとかに何か言われますよね?」
「ハハッ確かにね、じゃあさ今日練習試合終わったら帰りに靴見に行こうよ、ついていくし」
「え、いいんですか?!」
「いいよ、最近ゆっくり話せてなかったしね
…デートしよ」
しゃがんだままの私の耳元で、わざと囁くようにボソッと言ってスガさんは仲間の元に走っていった
デート…って
最近スガさんと話す機会が少なかったから、忘れてたけど
スガさんと2人で出掛けんのは、お祭り以来
あの…キスした日
「うわぁぁぁ!」
掻き消すように首を左右に振る
「わっ、歩ちゃんどうしたの?!」
驚いたやっちゃんに声をかけられる