第8章 それぞれの春高まで
「そう…かな」
「そうやで、しかもこんな風にチームのことを慮れる影山くんが、みんなに拒絶されることなんか絶対ない」
「おも…おもんぱ」
「あ、ごめん。チームのことを考えられる的な感じ」
「わざとだろ」
2人で顔を見合わせて笑う
「羨ましいって言うけど、橘さんだってバレー部の仲間じゃねぇか」
「そう思ってくれる?こんな私でも」
「当たり前だろ、てかみんなといる時の橘さんは心底楽しそうだなって思うけど…あれは演技じゃねぇよな」
橘さんはコクリと頷く
「私、女の先輩に可愛がられたことも本当に腹割って話せる女友達もおらんかったから、潔子さんややっちゃんと出会えて今本当に幸せやなって思ってる」
「そっか、ならよかった」
「もちろん影山くんとも」
イタズラっぽく笑いながら、橘さんは自転車のスタンドを外す
思わずハンドルを握る彼女の手に自分の手を重ねる
驚いたように橘さんが俺の方に振り向く
「それは…友達として…か?」
それとも男として?
怖くてそれは聞けなかった
聞いてどうする
結局のところバレーで埋め尽くされた俺の人生で、彼女を幸せにすることは出来ない
そう分かってるはずなのに…
「…なんでもない」
そう言って重ねた手を離した
俺はこの時
自分の意思で彼女の手を離した
「ただこれだけは忘れんな、前にも言ったけど…俺はこの先何があってもずっと橘さんの味方だ」
彼女は少し恥ずかしそうにコクリと頷く
これでいい
これでいいんだ