第8章 それぞれの春高まで
「本人が認めたんやから、そうなんやろ」
「本当に?本当に宮さんが浮気したって言ったのか?」
「え、なに?何かおかしい?」
「…合宿で会った時、宮さんはまだ橘さんのこと好きなんだろうなって思った。それなのに宮さんの方が浮気するなんて信じらんねぇ」
「合宿でアイツなんか言うてたん?」
「橘さんが元カノだって、わざわざ俺に言ってきたし、今彼氏いるのかどうかも聞かれた」
「は?うざいわほんま…侑に関係ないやろ」
遠くを見ながら小さな声でボソッと言う
怒ってる橘さんの関西弁は迫力が凄い
関西の女性はみんなそうなのだろうか
「まぁとにかく、侑と別れて高校に入学して、そん時に決めたねん。無理矢理ガサツに男っぽくして、明るくて楽しい自分になろうって…中学ん時みたいにトゲトゲせんと、誰とでも仲良しな自分を演じることにした」
いつでも笑ってて、ノリがよくて天真爛漫な彼女は無理して作り上げられた姿だった
「心の中で、アホらしいとかしょーもないとか思ってても、楽しそうにしてるんやで。引いたやろ?」
俺は左右に首を振る
「でもな、たまに疲れる…本当は、人の顔色とか伺わんと静かに本でも読みたいなって思う時があるわ」
彼女は困ったように笑う
「読めばいいじゃねーか、俺の前で」
「え?」
「俺の前で演じる必要なんてねぇだろ」
俺に両手を預けたまま、彼女は顔をあげる
「お前が本当はどんなやつだろうと気にしねぇ、それも含めて全部橘 歩なんだから」
彼女の目が大きく見開かれ、ツーッと涙が流れる
「うわ、悪りぃ!俺なんか変なこと言ったか?!」
彼女は首を左右に振る
「…ううん…影山くん、ありがとう」
「いや…別に」
「こんな風に言ってもらったん初めてやわ」
そう言いながら彼女は俺の手を離し、両手で涙を拭う
「でも影山くんはいいな、羨ましい」
「え?」
「烏野の仲間はきっと、影山くんが言いたいことを言っても受け入れてくれると思うで」
「…そうか?でも俺は、うまく伝えるとか苦手だし」
「そんなんみんな分かってるやろ」
そう言って橘さんが笑う
いつもの笑顔だ
「まぁ乱闘にはなるかもしれんけど、それでもきっと分かり合える…だってみんなバレーが好きやねんから」