第8章 それぞれの春高まで
「けどな、そんな私の状況、知ってたかどうかは分からんけど、中2ん時侑が付き合おうって言ってくれて…」
少し頬を赤らめて話す彼女に複雑な気持ちになる
「宮侑の彼女っていうポジションになってからは、イジメられることはなくなったし、それどころか治との仲を取り持って欲しいってすり寄ってきた子らもいたぐらい」
チラッと目が合う
「くだらん連中やと思ったわ」
そう言って俺の目を真っ直ぐ見る橘さんの瞳の奥が笑ってなくてハッとする
いつも笑顔で天真爛漫な彼女と別人のような冷たい目
見たことのないダークサイドな一面
それすらも魅力的で、鼓動が速くなる
そしてこの目どっかで見たことある
たまにゾクっとする目をする日向…
いや…この目は宮さんに似てるんだ
柔らかい雰囲気で軽口言いながら、目が全く笑ってないあの人に
「…ってこんな話聞かされてもって感じやんな、ごめんごめんやめよう」
いつもの口調に戻った橘さんが、冷えた両手にハァっと息を吐きかけながら言う
「いや、聞かせてくれ」
「え?」
「俺は、橘さんの全てが知りたい」
ギュッ
自転車の荷台に腰をかける彼女の前に立って、両手を握る
今晩は雪の予報
握った彼女の手は驚くほど冷たかった
「冷てぇ」
「影山くん…」
「いいから、続き」
「あ、うん…ほんで内心複雑な気持ちやったけど、侑に守られて私は中学生活を送って…今思えば、幼稚やと思うけど一生一緒にいるんやって思ってた」
橘さんに一生一緒にいたいと思わせる
それが宮侑
「そやけど侑は私を裏切った」
「え?」
合宿で出会った宮さんは明らかに橘さんのことを、まだ意識してた
なのに宮さんの方から橘さんを裏切ったなんて…
「もうそん時には稲荷崎受かってたから、てか厳密に言うと受験の日やってんけど…だからしゃーなし同じ高校には行ったんやけどな」
何があったかスゲェ気になる
「受験の日に別れたのか?」
これが俺が返せるレシーブの限界だった
「そう…受験に行った日に侑の浮気相手に待ち伏せされて、別れろって言われた」
ヤベェ
自分の恋愛偏差値が低すぎて、何も言えねぇ
「宮さんが…浮気?」
本当に?