第6章 日常
山本さんのストレートはアウト
じわじわと嫌な空気が絡みつく
向こうからのボール、際どい態勢で山本さんがレシーブする
あ、ボール…こっちきた
パーーン!
夜久さんがギャラリーに突っ込みながらレシーブしたボールをリエーフ君が相手コートに突き刺す
「っしゃ…え?夜久さん?…夜久さんっ!」
足を押さえて蹲る夜久さん
「お、歩ここにいたのか?俺、戻んねぇと」
どうやらレシーブの時、ギャラリーの誰かの足を踏んだみたいだった
夜久さんは足を踏んだ人に謝罪し、足を引きずりながらコートに戻る
ずっとバレー見てきたから分かる
足は踏まれた方より踏んだほうが大怪我する
夜久さん…この試合はもう…
猫又監督が芝山くんを呼び、夜久さんとの交代を告げる
コート外に出た夜久さんに後輩たちが氷を運んでくる
「私がやります」
夜久さんの足首をアイシングする
「歩…俺はこの1年、怪我も病気も一切してないんだ…なのに何で今なんだ…何で…」
大粒の涙が夜久さんの目から零れ落ちる
私は何も言えずにただ、夜久さんの足首に氷を当てがう
「俺とクロは初めて会った時から全然趣味が合わなくて、好きな食べ物から女の趣味まで何もかも正反対で、よく言い争ってた」
夜久さんはタオルで汗と涙を拭う
「でも…バレーだけはいつも同じ方向向いてた。1年で入った時のチームの目標が都大会ベスト8だったけど、俺らは全国制覇するっつったんだ」
そんで3年になった今、今年が最後
ギリギリと奥歯を噛み締める夜久さん
「夜久さんは私が今まで出会ったリベロの中で一番です」
「…おう、面と向かって言うなよ、恥ずかしいだろ」
「だってほんまのことですもん…全国では夜久さんの力が絶対必要です。この試合は必ず勝ちます、だから
夜久さんは今は休んで、完璧に足を治しましょう」
アイシングする私の手に夜久さんの手がソッと重なる
「そうだな…あいつらは大丈夫だよな」
「もちろんです」
「あーあ、歩に俺のカッコいいとこ見せてやろーと思ったのによ」
夜久さんが努めて明るく言う
「十分見せてもらいました。夜久さんのカッコ良さはまじで異常です」