第6章 日常
本屋に到着し、小説のあるコーナーに向かうと先輩もその後ろをついてくる
「先輩も、自分が見たいとこ見てきていいですよ。広いんで」
「いいの、私も小説好きだから」
そう言えば、付き合ってた頃に入った彼女の部屋には沢山の本があったような気がする
彼女の部屋…
僕が大人の階段を登ろうとして
でも上手くいかなかったあの部屋
頭を左右に振って雑念を払う
あ、この本歩に借りた作者の新作だ
歩は買っただろうか
そういえば年末に帰省する時に新幹線で読む本が欲しいとか言ってたな
「彼女…歩ちゃんとも、ここに来たの?」
先輩が平積みにされている話題作を手に取りながら訊く
「いえ」
「そうなんだ、まぁそんなに知的そうには見えなかったかな。顔は美人だけど、蛍があんな感じの子タイプだったの意外」
「あんな感じ?」
「ちょっと騒がしい感じ?蛍にはもっと落ち着いた知的な人が合ってると思うけど」
確かに歩は騒がしい
圧は強いし、おせっかいだし、勇ましい
そして優しくて、真っ直ぐで、眩しい
「でも僕より歩の方が成績はいいですよ」
「そうなんだ、意外」
歩が好きそうな本を数冊選び、月刊バリボーを片手にコーヒーを買う
「カフェオレでいい?」
「さすが蛍、覚えててくれたんだ」
自分の分のコーヒーを手に持ち、先輩にカフェオレを差し出す
空いているカフェスペースに腰を下ろし、雑誌を捲る
…と、あるページの特集記事に釘付けになる
IH 準優勝 稲荷崎高校
セッター 2年 宮侑
「…稲荷…崎」
歩が前にいた高校
稲荷崎が強豪なのもIH準優勝なのも知ってたけど、このセッターってもしかして…
『近所の一個上に双子の男の子がおってな』
歩の言葉が思い出される
これがアイツの幼馴染?
記事を読んでいくと、双子の片割れも同じチームでバレーをしていて宮ツインズと呼ばれ、かなり人気があることが分かった
写真を見る
確かに女子ウケしそうな顔立ちをしている
歩は、どうだったんだろう
この双子のどちらかに恋心を抱いたりしてたんだろうか