第6章 日常
ー影山side
俺が次は絶対赤点取らないって言ったら彼女は笑顔で
「期待してるわ」
と言った
「でも俺…いつも橘さんにしてもらってばっかだ」
「何を?」
「勉強も、それに弁当まで…」
「気にせんでええよ、関西のおばちゃんはお節介やから」
そう言って笑う彼女の風貌は、およそ関西のおばちゃんからは程遠い
「なんかねぇのか?」
「何が?」
「その…なんか俺が橘さんに出来ること」
「え」
彼女はウーンっと首を傾げて考える
「あ、あれやな!」
「おお、なんだ!」
「私を甲子園に連れてって!ってやつやな、私を春高に連れてって!ってあかんやん、もう連れてって貰ったやん!」
「そんなん、これからだって何回だって連れてってやるよ。全国制覇もしてそんで…日本代表になって、その試合に招待してやる」
俺は絶対日本代表になってやる
そんでその試合に橘さんが来る
願わくば元チームメイトとかじゃなくて…
あれ?でも女の子が欲しいものってそんなんじゃないよな?
って思ったけど
「あ、言うたな!それやで、約束!」
橘さんは心底嬉しそうだから、まぁいいか
「さー、日本代表の試合に連れてってもらえるとあれば俄然やる気出てきたな!よし、勉強やるでー!」
彼女は腕まくりをして、テキストをめくる
それから昼休みは橘さんが作ったサンドイッチやおにぎりを食べながら部室で勉強するってのが定番になった
勉強は嫌いだけど、こうして2人でいる時間は本当に楽しくて、テスト期間も悪くないなんて思う
前に月島と付き合ってるわけじゃないって言ってたけど
それは今もなんだろうか
自分に恋人が出来るってのは想像もつかないけど
できれば橘さんは、誰のモノにもならないでほしいなんて…俺はワガママなんだろうか
「さて、これであとは部活終わりに日本史の暗記だけやな」
彼女がテキストを閉じながら言う
「橘さん、本当ありがとう」
「うん」
「あのさ…なんかそのうまく言えねぇけど、どんなことがあっても俺は橘さんの味方だから」
彼女の目が大きく見開かれ、そして笑顔になる
「ありがとう」
そう言った彼女の笑顔は少し寂しげだった