第6章 日常
ー縁下side
昼休み、橘さんを部室に呼び出し、2人で勉強会の資料を作る
「昨日のは勉強会っていうか、大喜利大会でしたね」
「橘さんも勉強教えるどころか、ずっと笑ってるだけだったしね」
「ほんまお腹痛かったです、いやでもあれは縁下さんのツッコミがキレキレすぎたからですって!笑かしにきてたでしょ?」
「してないし」
「えー!素でアレはズルすぎます、ワードセンスが羨ましい」
「関西の人って笑いにストイックなんだね」
「まぁ、可愛いとか言われるよりオモロイって言われる方が100倍嬉しいですね」
テキパキと資料をホッチキスで止めながら彼女が言う
「え?!そうなの?!
「え、逆にちゃうんですか?ほな縁下さんは何て言われるのが嬉しいんですか?」
「そう言われると難しいけど…優しいとかはよく言われるけど、それは別に嬉しくないかな?」
「そうですか…私、縁下さんを見てて他人の弱さに寄り添える優しさってすごいなって思いますよ?」
真っ直ぐな瞳に見つめられて鼓動が速くなる
「弱さに寄り添う?」
「はい、私はどっちか言うと、ネガティブな人の気持ちはよく分からんから、気合いが足りんとかで片付けてしまいたくなるんです。でも縁下さんって何か弱さを知ってる感じがあるというか…」
「それは多分、俺自身が弱い人間だからだよ」
「そんなことは…
「俺、逃げたことがあるんだ。バレーから」
「え?」
「1年の時にさ、烏養元監督が指導に来てくれてた時期があってさ、すっごくキツい練習だったんだ。本当は今のメンバー以外に、まだ2年はあと2人いたんだけど…そのキツイ練習で来なくなったんだ」
「そうだったんですか」
「で、俺も何となく1日くらい行かなくても…って初めて練習をサボって、1回行かなくなるとズルズルと…」
彼女は真剣な眼差しで俺の話に耳を傾ける
「もう暑い体育館で苦しい練習をすることもない、クーラーの効いた部屋で好きなことしてって思ったけど…実際は全然、そっちの方がバレーの練習より100倍苦しかった」
「そうだったんですね…」
「まぁ、俺は逃げたことがあるから、逃げる方が後からしんどいって知ってるだけだよ」
自嘲気味に笑う
でも彼女は笑わない
俺をまっすぐ見つめ
「それが縁下さんの優しさと…そんで強さなんですね」