水光接天 【鬼滅の刃/宇髄天元・弟】【中編】【R18】
第1章 ※忍びの里
あやは予想通り、天空の妻となった。
まだ子供が成せるほど体が成熟していないため、夜のお勤めは無い。
その分くノ一の任務や訓練に心血を注ぎ、さらに技術を向上させた。
時折、夫になった天空の部屋に呼ばれて話し相手になる。
ある円月の晩だった。忍びは月明かりの夜は目立ってしまうため、余程の急ぎの任務でない限り動かない。
風も凪いでいたので、天空は障子を開け、時折空に響く遠くの鳥の声を聞きながら座っていた。あやもその傍へ座る。
天空は静かにあやが注ぐ酒を呑んでいたが、ふと思い出したかのようにあやの方を向き、口を開く。
「あや、お前は本当に須磨の居場所を知らないのか。」
あやが嘘をつかない様に瞳の奥をじっと見据えている。天空の口元や目元に表情は写っていない。
「はい。存じておりません。あれから何の便りもありません。」
あやも本当に何も知らないので、後ろめたいことは何も無く、向けられた漆黒の瞳に答える。その瞳を見つめていると、ずぶずぶと底なし沼に沈んでいるような、手足から体温が奪われていき、気が付くと動けなくなっているような・・そんな錯覚に陥る。
何の感情も表さない夜の闇のようなその瞳。そして夜の闇に融ける漆黒の髪。天元の夜の月の様な銀の髪、紫水晶の瞳とは正反対の、闇に乗じる忍びに相応しい天空の色。二人は兄弟なのにあまり似ていない。
「お前と須磨も双子なのにあまり似ていないな。」
自分が考えていることが見透かされたのかと驚いていると、天空の指先があやの顎を捕らえてクイと上にあげる。
須磨とは双子だが、見目がかなり違う。髪の毛こそ暗い色で同じだが漆黒で艶やかな姉の髪と比べるとあやのそれは色素が薄く焦茶、瞳も自分は飴色だ。藍色のぱっちりとした瞳の姉とは違ってあやは切れ長の瞳だった。並んでいても双子だと気付かれた事は無い。
姉は母親似。自分は父親似。天空様もお父上似で、天元様は奥様似だ。
余計な事は言うまいと、静かにされるがままになった。