水光接天 【鬼滅の刃/宇髄天元・弟】【中編】【R18】
第10章 天満月
天元があやを後ろから抱きしめていた。腕はあやの胸元で組み、肩に頭を置いて。
天元は大きな体だが、肩に重みをほとんど感じないので、気を使ってくれているのが分かる。決心がつかなかったかとあやは思い、そっと胸元の天元の腕に触れて言う。
「天元様、一緒に月を見ますか?」
「・・・そうだなぁ。里にいた頃はよく一緒に見たな。」
天元は肩から顔を上げない。小さく溜息をついて天元はあやの手をすりと撫でる。
「・・・天元様。奥方が恋しくなりましたか?」
「いいや。お前が愛おしくなった。」
「・・・私は天空様の妻です。」
「やはりか。まぁ、順当にいけば、・・・そうなるだろうな。」
「もともと俺の妻はお前だったからな。」
「ご存じだったんですか?」
「・・・・お前も知ってたのか?」
天元は少し驚いた様子でやっと顔を上げる。
「天空様から伺いました。」
「・・もしもあの時、あやが俺の妻だったら一緒に里を出たか?」
「・・・どうでしょうか?私は天元様をお慕いしていたので、その時に聞かれたら『はい』と答えたでしょうけど、今なら須磨が私の替わりに里に残ることを考えると気の毒すぎるので、・・・須磨に申し訳ないと思いながら生きていくよりは、今のままが良いのかと。」
「・・・確かに須磨を置いていくのは心配だ。」
「そうでしょう?」
ふふふっとあやは笑いながら言う。
須磨に対しても、天元に対しても何も期待しておらず、かといって恨んでいるわけでもなく、ただ自分の運命を受け入れているあやの姿に天元は何も言えなくなる。
「・・・・。」
(じゃあ…お前自身は?残されて辛い思いをする自分はいいのか?須磨が幸せなら?・・・・馬鹿だ俺は。聞くんじゃなかった。)