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水光接天 【鬼滅の刃/宇髄天元・弟】【中編】【R18】

第10章 天満月


もう寅の刻になってどれくらいだろうか。少し空が明るくなってきた。夜明けまで一刻はないだろう。
夜明けの近い月は少し紫色になっていた。天元の瞳よりも薄い紫。あやは綺麗だなぁと少し晴れ晴れした気持ちで見ていた。

あやの予想通りだった。さほど時間が経たないうちに、襖がすっと開く。
振り向くと、鴨居に手を掛けながら大きな体を折り曲げるようにして中を覗き込んでいる天元がいた。

風呂に入ったのだろう、濃紺の浴衣を着た天元は匂い立つ様な色香が漂ってくる様だった。隊服よりこういう和服の方が天元の整った顔をより引き立ててくれるとあやは思う。女である自分なんかよりよっぽど色っぽい。

「あや、ちょっといいか。」
優しい眼差しと穏やかな声。
「はい。どうしましたか?」
身体の向きは変えずに、顔だけ向けてあやも同じように穏やかな微笑みで返す。
「ちょっと話がしてぇ。」
「・・・どうぞ、天元様。・・・戦っている時には気付きませんでしたが、今日は綺麗な満月ですよ。」
あやはにっこり笑って言うとまた月を見る。

鴨居をくぐって天元が入って来る。
足音は殆どしないが、衣擦れの音が微かにする。音は部屋を過ぎて縁側まで来てあやの背後に立つ。あやはもうそのまま一思いに殺してほしいと思い、背を向けたまま月を眺めていた。大好きな月を見ながら死ぬのも悪くない。そうすると希望通り、嫌いだった朝は来ない。
ふと杏寿郎殿の顔が浮かんだ。偽りの立場とはいえ、私を人として見てくれた数少ない人だった。私が死んだら悲しんでくれそうなので、心が痛んだ。あんなに熱心に沢山の事を教えてもらったのに、多くの命を救うことができず申し訳なかった。と。


天元は背後に立ったまましばらく動かない。この期に及んで迷っているのだろうか?天元様はやはり優しいなと思いながら、振り向いて心が揺らぐと良くないのであやは待った。

空気が少し動いたと思ったので、静かに目を閉じる。
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