水光接天 【鬼滅の刃/宇髄天元・弟】【中編】【R18】
第1章 ※忍びの里
年齢だけで言えば、天元の弟の天空の方が近いのだが、天元の方が優しい。仲間が死んでしまうと悲しそうな顔をするし、女子供を殺すような任務の後には少しだけ暗い顔をしている。当主には「心の弱い奴」と咎められて殴られているけども、あやはそうは思わなかった。
優しいことは優秀な忍びになる為には良くないことも分かっているが、自分が優しくされると嬉しかった。そんな人間らしい天元が愛おしく、傍でその優しさを守りたいと思っていた。
大人たちがいない任務で一緒になると、いつも楽しい話をして笑わせてくれ、こっそり珍しい菓子などをもらったこともある。
崖での訓練の際には滑落死する仲間が出ない様に、天元は一番最後に上り、一番最初に降りた。実際、滑落してしまった時に天元に助けてもらった仲間はもう両手で足りない程いた。他の訓練でも大人の目を盗みながら、なるべく仲間を死なせない様にしていた。
見つかると罰を受けるが、自分が殴られても吊るされても気にしていない様だった。
あやも数年前に、毒の訓練で致死量ぎりぎりの毒を飲んでいたら、大人の計算違いで飲んだ量がはるかに致死量を超えており、死にかけた。あやが苦しみ始めたのを傍にいた天元が気づき、流石に様子がおかしいと察した。すぐに監視役の大人を殴り、解毒剤を奪い取って飲ませてくれ、命を助けてもらった。天元は貴重な解毒剤を使って取るに足りない命を助けてしまったということで、かなり長い時間吊るされていた。あやは天元が下ろされた後、こっそり泣きながら謝りに行ったが、「こんなの、大したことねぇよ。」と笑って頭を撫でて涙を拭いてくれた。
そもそも、宇髄家の子息とあやの様なその他大勢の忍びの命は同じ重さではないのだ。
天元の父である当主は、天元がただの駒に情けを掛けることが気に入らず、事あるごとにその甘い性根を叩きなおす。とつらく当たっていた。
それなのに、天元は当たり前の様に他の仲間の事をこっそりと庇い、守ってくれていた。うまくいかないことに助言をもらったり、落ち込んでいたら笑わせに来てくれた。宇髄の子供たちの中でもそんなことをしてくれるのは天元だけだった。