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水光接天 【鬼滅の刃/宇髄天元・弟】【中編】【R18】

第5章 力の差


「お前…何でここにいるんだ?」
あやの視界が暗転した。一瞬気を失っていたらしい。
…聞き覚えのある声。


「!君は何をしているんだ!やめろ!」
杏寿郎の声も聞こえる。

「…げほっ、…げほっ…。」

あやは咄嗟の事で状況がつかめなかったが、胸の辺りが苦しく感じた。顔が下を向いて俯いていており、視界に広がるのは自分の胸元だった。頭を少し打ったのか視点が定まらない。大きな手に胸倉を掴まれて胸を圧迫されているので、咳き込むのも難しい。
そして背中が痛い。
持ち上げられて、壁に押し付けられていて、足は地面に着いていない。
どうやら5間ほど後方にあった壁に背中を押し付けられている。瞬きをする位のほんの少しの間だった。顔を少しだけ上げるとぼんやりと姿が見える。
ぐっぐっと胸を押す力が強くなる。…まずい。このまま胸を潰す気だ。


杏寿郎が慌てて駆け寄りその手首をつかみ、握る手に力を入れる。
「離せ宇髄。君は正気か?あや、大丈夫か?知り合いなのか?」
――宇髄…やはり…。

あやはほとんど声にならない声で「…いいえ、存じません。」と杏寿郎の問いに答える。

あやは視界が鮮明になってきたので焦点を合わせると、赤紫の瞳と目が合う。約四年前に見た時よりも随分と身体が大きくなり、顔の雰囲気も大人びていて若干印象が違うが天元だ。初めて見る憎悪に満ちた目であやを睨んでいる。

「煉獄…何でお前こいつといるんだ?」

「…宇髄。まず離せ。」

杏寿郎が掴んだ手首がミシッと乾いた音を立てた。

「煉獄…悪いィが、俺の質問に先に応えろ。手首を潰されようが離す気は無ぇぜ。」

「…俺の父上の知り合いの娘さんだ。…今は俺が預かっている。さあ離せ。」

天元は視線をあやから離すことなく、杏寿郎の説明を聞く。杏寿郎は手首を掴む手にさらに力を込めながら、天元の顔を睨む。天元の手首がみるみる青紫になっていく。

その様子を見ていたあやは、次の天元の言葉に備えて、杏寿郎の死角になる方の手の人差し指と中指を揃えてそっと頸動脈に当てる。指と指の間には袖に隠してあった薄い剃刀の刃が光る。あやは天元の目をじっと見つめた後「天元様」と声に出さず口だけを動かし、口元に笑みを受かべて目を伏せ、お礼を言うようにほんの少しだけ頭を下げた。
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