水光接天 【鬼滅の刃/宇髄天元・弟】【中編】【R18】
第5章 力の差
「チッ・・・煉獄、人違いだったすまん。」
あやが顔を上げた瞬間頸動脈を切るつもりだと察した天元は慌てて手を離しながら、あやの指の間の剃刀を遠くへ弾く。急に手を離されたあやの身体はどさっと地面に落ちた。
「宇髄。謝るのは俺にではない。君は・・なんてことをするんだ。君の目方の半分も無い程のお嬢さんだぞ。怪我でもさせていたら人違いだったではすまさんぞ。」
珍しく杏寿郎が怒って天元に食って掛かっていた。
言うだけ言うと、「あや、大丈夫か?」あやの手を取って立たせてやり、自分の背後へ隠し、また天元を見る。
「・・・すまん。女。悪かった。大丈夫か?」
天元は杏寿郎の手前、表情を少し穏やかにし、杏寿郎越しにあやの顔を見て謝る。
「・・いいえ。大丈夫です。」
杏寿郎はまだ納得いかないという風に天元を睨んでいる。
「・・・知り合いに似ていた。・・・本当にすまねぇ。」
「・・・杏寿郎殿。私は大丈夫です。」
着物に着いた泥を払いながらあやは答える。
「・・・宇髄。君がそんなに乱暴な男だとは思わなかった。」
杏寿郎はそう言うとくるりとあやの方を向いてあやの顔色を確認し、「ゆっくり深呼吸してみてくれ。」と呼吸の音を確かめた。
「・・・・悪かった。じゃあな。」
天元も体の向きを変えて背を向ける、肩越しにあやを見ると一瞬差すような視線を送り、姿を消した。
「あや、俺が付いていたのにすまない。宇髄もいつもはあんな男ではないんだが・・・。あんな顔は初めて見た。」
「本当に大丈夫か?」と何度もあやの顔を見ながら訊く。
「・・はい。大丈夫です。あばらも折れていません。・・・杏寿郎殿、宇髄様ということは音柱様ですか?」
「そうだ。元忍びらしい。」
「動きが全く見えませんでした。」
大丈夫そうだと確認できると、あやと杏寿郎はまた蝶屋敷に向かって歩き始めた。
(杏寿郎殿と一緒で良かった。一人だと死んでいた。)
(いや、あのまま殺す気だったくせに、私が笑顔を見せて頸動脈を切ろうとしたただけで辞めた。相変わらず天元様は優しいご様子。)
(・・・天元様の暗殺命令が出たらまともには戦えないから毒か・・・奥方からいくか・・・。)