第13章 ハナミズキ
「大丈夫か、中彩。」
フラフラとする私の肩を支えて煉獄さんとシアターを出る。入口でゴミを回収する店員さんにも心配そうに見られた。私は顔を見られるのが恥ずかしくて、煉獄さんの影に隠れる。
マスクの下、多分私は鼻が真っ赤になっている。映画が終わってから、パルコを出るまでの間、映画の中で見た煉獄さんの全てに圧倒されていた。煉獄さんの温もりに触れながら私は思う。
煉獄さんは、弱き者を助けることが強き者の定め、そんなお母さんの言葉を胸に生きていたんだね。だから一人で懸命に辛いことがあっても、頑張っていたんだね。
外に出ると風が冷たかった。強い風が髪を攫う。時刻は20時過ぎ。もうすっかり陽も沈んでいる。湯島駅に向かって上野広小路の信号を待つ。
「中彩、」
煉獄さんに呼び止められる。私はその言葉に信号機から煉獄さんに視線を移す。
「俺は、君を好いている。」
突然の告白だった。私は言葉が出ずに固まってしまう。こ、ここで…?などと分かっていたはずなのに混乱してしまう。
「君と、恋仲になりたいと思っている。」
私は煉獄さんの言葉におずおずと頷く。
「構わないだろうか。」
私は黙った。映画を見て、分かったことがある。それは、煉獄さんはやっぱり、煉獄さんであること、私の知る煉獄さんであること。そう、私は怖かったのだ。私の知らない煉獄さんが映画で出てきたら、私にとっての煉獄さんと、鬼滅の刃の中の煉獄さんとで違いがあって、彼が遠くに感じてしまったら、と。でも、煉獄さんはやっぱり煉獄さんだった。私の知る煉獄さんだった。
そして、今の私はどちらの煉獄さんも知っている。今ならば、…
煉獄さんの手を両手で握った。煉獄さんは「むっ、」と驚いた声を上げる。その手は本当に温かくて、大きかった。私は煉獄さんが確かにこの世界にいるんだと私は確かめるように、何度も何度も握った。
すると、煉獄さんは私の手のひとつを逆に握り返し、私の手の甲に口付けた。まるで、姫にする王子様のそれのように。そして私に言う。
「いずれ俺の存在も、鬼滅の刃が忘れられるに従って、人々の記憶から消えるだろう。多くの世界がこの世にはある。興味は移りゆく。だがそれでも構わない。人が老い、死ぬように自然のことだ。人が生きる、その限りある時間の中で、俺を君のそばに居させてくれないか。」
