第13章 ハナミズキ
朝日が昇る。煉獄さんは乗客200人を守り切った。
「卑怯者!!!」
泣き叫ぶ炭治郎くん。煉獄さんの傷はもう致命傷と呼ばれる範疇を超えていて、もう長くないことが分かる。それでも、煉獄さんは柔らかく微笑んでいて、最後の言葉を残そうと優しく炭治郎くんを自身の近くへ呼ぶ。
猗窩座の腕が朝日に照らされて灰になる。その瞬間、煉獄さんの傷が広がり、地面に血が広がる。私はそんな煉獄さんを見るのが辛くて息が苦しい。
「俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば後輩の盾になるのは当然だ。柱なら誰だって同じことをする。若い芽は摘ませない。」
そうかもしれないけど、そうかもしれないけど、煉獄さんはどうなるの、煉獄さんはそれでいいの。私は言葉を飲み込む。
最期、煉獄さんの霞む視界の端で、再びあの美しい女性が現れた。煉獄さんがふと瞳を開く。
「母上、俺はちゃんとやれただろうか。やるべきこと、果たすべきことを、全うできましたか?」
煉獄さんのお母さんが微笑む。「立派に出来ましたよ。」と言葉を紡ぐ。その言葉に煉獄さんは微笑んで、安らかに眠る。二度と言葉を発することは無かった。
煉獄さんは最後まで、お母さんの言葉を胸に戦ったんだ。彼が強いのは、あの日お母さんに言われた言葉を精一杯全うしようと努めたんだ。
だから、彼は戦ったんだ。
煉獄さんが亡くなったあと、炭治郎くんや、善逸くんや伊之助くんがわんわんと泣くのと合わせて私も大泣きした。すると、隣の煉獄さんが私の頬にティッシュを当ててきた。照れくさそうに、困ったように微笑んでいた。煉獄さん、ほら皆煉獄さんが亡くなってこんなに悲しんでるよ、でも皆前を向いてるよ。煉獄さんが守り抜いたんだよ。
「煉獄さん…煉獄さん…」
炭治郎くんが大泣きする声に画面が暗転し、エンディングが流れる。エンディングには煉獄さん、煉獄さんと千寿郎くん、そして2人に稽古をつける煉獄さんのお父さん、幼い煉獄さんを抱きしめるお母さん。そして折れた煉獄さんの日輪刀が映し出される。
煉獄さんが渡してきたティッシュを受け取りながら涙を拭いた。大泣きしてしまった。恥ずかしい。ふと、煉獄さんを見ると、煉獄さんは懐かしそうにエンドロールに映るそれらを見ていた。その間、ずっと煉獄さんは画面を見ながらも、私の背中をさすってくれていた。その優しさに私はまた、涙が零れてしまった。
