第18章 温かい指先
「うっ…うっ…」
「泣きすぎだ。麻衣。」
「でも…、…っ」
日常を過ごし、時は流れ2022年。麻衣との生活にも慣れ、俺は穏やかな日々を過ごしている。
しかし、今日の麻衣はいささか泣き虫のようだ。普段は芯が強い彼女だが、心はとても繊細なのだろう。誰よりも優しい女性と思う。俺は泣きじゃくる彼女の肩を寄せ、その髪を撫でた。
鬼滅の刃、遊郭編。
俺のいた世界を映し出した物語が、進んでいた。
自分の死後の世界を見るというのは、とても不思議な気分で、残してきた竈門少年、千寿郎、父上、皆の顔が懐かしく思えた。竈門少年が父上に頭突きしたのを見た時は、流石に驚かされたが、心の優しい、彼らしいと思った。
その物語を見て、麻衣が泣いているのも、なんだか不思議な気分だ。違う世界にいた俺と彼女が巡り会って、皆のいた世界を眺めている。
自分のために泣いている皆を、心穏やかな気持ちで見守ることが出来るのは、麻衣のおかげだろう。麻衣との生活が、共に過ごす心穏やかな時間が俺の居場所をくれた。この世界に鬼がいなくとも、炎柱としての役目を終えようとも、俺の心には確かに生きる炎がある。
「千寿郎も、父上も、元気にしている。俺は今とても幸せだ。どうか、笑ってほしい。」
母上とはあれ以来お会いできていないが、きっと今も俺と、麻衣のことを見守っていてくださっていると思う。また、千寿郎や父上のことも。きっと俺を見守ってくださっていたのと同じように。千寿郎と父上が、これからも無病息災にて穏やかに過ごすことを俺も願う。
「杏寿郎さん…」
麻衣が俺の名前を呼んで目を腫らしている。俺が使用していた刀の鍔、炎を竈門少年が受け取っているのを見て、また涙を流している。俺はその頬にちり紙を添えた。
「今日はもう寝よう。麻衣」
「はい…」
「明日も良い天気らしい!早起きして家の中を片付けるとしよう!」
「…はい…」
俺の言葉に頷きながらも、まだ名残惜しそうに画面を見る麻衣の瞼を指で撫でた。麻衣の涙の温度が俺の指先に移ったように、痺れる。心地よい心の凪に、そっと部屋の電気を暗くした。
部屋を暗くすると、鼻先に麻衣の香りがした。遠慮がちに服の裾を掴む彼女を俺は抱き寄せて目を閉じた。