第13章 ハナミズキ
列車が横転する。皆が無事だ。そう、全てが終わったように見えた。
その時、何かが地面に着地する。煙の中に不穏な目が赤くぎらりと光る。
現れた鬼の瞳には「上参」の文字。
煉獄さんが再度刃を振るう。切ってもすぐに再生する腕の鬼。両者の実力は拮抗、いや、煉獄さんが押されていた。鬼の拳を刀でいなし切れず、煉獄さんの左目を潰す。私はそんな煉獄さんの姿に胸が張り裂けそうになる。
もういい、もういいよ、煉獄さん。逃げて煉獄さん。
とても素早く繰り返される押収にこの二人以外、誰も間に入ることが出来ない。森に飛ばされる猗窩座。煉獄さんがそれを追う。肩で息をする煉獄さん。明らかに消耗している。無理もない、1人で五つもの車両を守って、その後にこの戦いだ。煉獄さん、逃げて。私は胸の中で何度も叫んだ。
どんどん傷を負いボロボロになっていく煉獄さんに、私は遂に画面を見ることが出来なくなり、俯く。
「中彩、見ていて欲しい。」
すると、俯く私の肩を抱いて、隣の煉獄さんが私の耳元でそう言った。私は煉獄さんを見つめる。煉獄さんは柔らかく微笑んでいた。画面を見つめ直す。そうだ、私はそのためにここに来たのだ。
煉獄さんと猗窩座の一撃がぶつかり静寂が訪れる。煉獄さんの口元から血が地面に落ちる。
なおも、彼は彼自身を燃やした。
「俺は、俺の責務を全うする!!!炎の呼吸…奥義!」
ああ、彼は、私の知ってる煉獄さんそのままだ。
煉獄さんの奥義が竜のように吠え、鬼にぶつかる。
その瞬間、風鈴の音が鳴った。場面は煉獄さんの幼い頃の場面に移る。私はそこで目を見張る。
「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさなければならない使命なのです。決して忘れることなきように。」
夢で会った美しい女性だった。枕元には内服薬。病弱な女性なのだろうか。
隣で眠る千寿郎くん、幼い煉獄さんはハキハキと返事をした。
「私はもう長く生きられません。強く優しい子の母になれて幸せでした。後は頼みます。」
その言葉に息を飲む。夢で会ったあの人は、煉獄さんの、お母さんだったんだ。真っ直ぐな言葉。
幼い煉獄さんの瞳が揺れて、滲む。そっか、この日から、煉獄さんは強い人になったんだね。
煉獄さんのみぞおちに腕が貫通する。なおも煉獄さんは戦い続ける。強い信念で責務を全うせんと吠えた。
