第2章 おはよう
「つまりは、君の名前は中彩麻衣で、ここは君の家で、今日は令和3年の2月20日なのだな!わっしょい!」
「そうです。何かわかりましたか?(わっしょい…?)」
「何もわからん!!!」
彼はさつまいものお味噌汁をわっしょい、と言いながら全部食べてしまった。なかなかに豪快な人だ。そして、令和という元号も、今の世の中がどうなっているのかも何もかも知らないようだった。私は彼がおかわり!というたびに台所へ歩いたので、もう台所の床に座ったままになっていた。そんな私に彼は正座の向きを私に向ける。
「とりあえず、俺はこの家を出る。世話になったな、中彩」
真っ直ぐと突然、だがしっかりとした口調で告げる彼に面食らってしまう。
「ちょ、待ってください!家を出るってどこに行くのですか!」
「宛はないが、見たところ嫁入り前の娘の家にずっといる訳にも行くまい。君に、これ以上負担はかけられない。」
彼は真っ直ぐに私を見てそう言った。思ったよりもちゃんとした人のようで私は安心するが、私も彼に真面目な表情で向き直る。
「お兄さん、あなたお金はあるのですか?」
「む?!」
「忘れているかもしれませんが、刀!持っていたんですよ!?」
「日輪刀のことか!」
「日輪刀…は知りませんが、今の世にあんなもの持って出歩いたら警察の人に捕まってしまいます!」
「む…」
私の言葉に彼は眉をひそめる。私は相手を見つめ、静かに、ゆっくりと言った。
「あなたは何者なのですか?」
彼は悩んでいた表情を解き、私を真っ直ぐに見つめた。相変わらず視線は合っていなかったが。
「煉獄 杏寿郎だ!」
「れんごく、きょうじゅろう…?」
なんだその名前は、どこかのお貴族様の名前か?関西圏の名前か?とりあえず苗字にも聞き覚えがなかったが彼の燃えるような髪や目の色に、もしかして異世界人?という考えも浮かんでふるふると頭を横に振った。まって、なにか、どこかでその名前を聞いたことがあるような気がする。彼は私のことを真っ直ぐに見つめている。
れんごく、れんごく…
「先輩、煉獄さん、すっごく泣けますよ!
先輩も見てみてください!」
会社の後輩の言葉だ。なんだっけ、なんだっけ、思い出しちゃいけないような思い出さないといけないような、いや、思い出せ…