第2章 おはよう
そうだ、鬼滅の刃だ。
世の中の感動が今一色に染まっているという噂の、鬼滅の刃だ。私は仕事にかまけて見ていなかった。背中に流れる冷や汗を感じ、台所から布団へ足早に戻った。
「む…、どうした中彩」
充電してあったスマホを線から乱暴に抜き、震える手で検索した。
鬼滅の刃 煉獄
画像が一瞬にして画面に表示される。黄金の、毛先に行くに従って燃えるような赤の髪。特徴的な眉毛、大きな瞳。この人だ…
「その板はなんというのだ?」
私のスマホを覗き込むように物珍しそうに見てくる。私は慌ててスマホの画面を切り、布団に投げた。
「よく聞いてください、煉獄さん。」
「うむ!」
「あなたは、ここにいなくてはいけません。」
「中彩には大変世話になったが、聞くことは出来ない!」
「あなたが今外に出ていったら、あなたは間違いなく大変なことになります」
アイドル、俳優、ニュース、ラジオ、そんな明るい世界ならばいい。よからぬ事を考える他の国や組織や人達が、この存在を放っておくはずがない。
「俺は大丈夫だ。問題ない。今までも何度か命をかけて戦ったことがある。」
「そうじゃなくて」
私の言葉を意に返さず淡々と告げるその表情を両手で挟み込む。頬を包む。目線を合わせる。
「あなたはここにいなくちゃダメです。これは決定事項です。当分の間、外に行く時は私も一緒でないとダメです。」
自分の頬を抑えていた私の手の上に自分の手を重ねて私の瞳を見る。先程とは違ってしっとりとした声音で呟く。
「駄目、ばかり言うのだな君は。」
私はその瞬間、自分が大胆にも相手の頬に触れていたことが恥ずかしくなって手を引っ込めた。それに何より、この人ものすごく色っぽい。顔が赤くなる。耳も赤いかもしれない。でもここは絶対に引けない。この人が元の世界に戻れる方法があるかもしれない。
「もしかしたら、あなたはこの世界の人でないかもしれません。」
「そうだろう。」
「元の世界に戻る方法を探すためにも、拠点を持っていた方がいいと思うんです。」
「…」
「あなたにも大切な人がいたのでは無いですか?その人たちに会いたくないですか?」
「君が言う通り、仮に俺がこの世界の人間でなかったとして、俺はもう元の世界に戻ることは出来ない。なぜなら、」
俺は、猗窩座との戦いで命を落としたから。