第11章 ずる休みと第22話
私の名前を呼ぶその人の姿を朧気の意識の中で探す。あなたは誰ですか…?どこにいるんですか…?意識の中で呼びかける。すると、声は目の前から聞こえた。
「私はここです。」
「!」
私は気がつくと、周りが光りに包まれた温かな空間にいた。そして目の前に美しい女性が立っている。ここはどこ?と周りを見回す私にその美しい女性は私を真っ直ぐに見て言った。
「あまり時間がありません。端的に申します。聞きなさい。」
私はあまりにも非現実的な空間に放り込まれて、これは夢か?と悩みつつも、目の前の女性の言葉に息を飲む。女性の声は何故か私に有無を言わせぬ力を持っていた。女性が正座で座った前に、私もおずおずと正座で座る。
「私は杏寿郎を貴女の元へ送った存在です。」
「えっ!?」
私は突然のことに頭が追いつかない。なに、急にファンタジー展開来た?!夢!?やっぱり煉獄さんをこの世界に送った存在がいたんだ!というかなぜ私に?
「貴女には、杏寿郎のそばにいて欲しいのです。」
「えっと、それはどういう…?」
目の前の女性を見つめる。彼女もまた私を見つめていた。綺麗な赤色の瞳、美しく流された黒髪、透き通るような肌。本当にとても美しい女性だ。私は見惚れてしまう。
「杏寿郎には、心安らぐ時間が必要です。ずっと懸命に人のためにと尽くしてきたあの子に、私は幸せになって欲しいのです。」
目の前の女の人は静かに、だが力を持った声で私に言った。私は身が引き締まる思いでその話を聞く。
「あの、どうして私なのですか」
「貴女は強く、優しく、貴女もまた人のために尽くすことの出来る人間だからです。」
「私は全然、そんな大層な人間ではありません。会社もずる休みしちゃうし…」
私は罪悪感で言葉を濁す。
「いいえ、貴女が思っていないだけで救われた人は沢山いるでしょう。」
だが女性は私を安心させるようにふわっと微笑んだ。不思議だ。私はその女性の言葉に心が救われる思いになる。
「貴女が望めばで構いません、杏寿郎と共に居てください。私はそれを望んでおります。杏寿郎には、身体を大切に過ごすようにと伝えてください。」
段々と女性の姿が薄くなる。私は慌てて女性に手を伸ばす。
「待って、貴女の名前を教えて!」
「私の名前は…、いいえ、知る必要はありません。また、きっと、会えます」
「待って!」
…
