第11章 ずる休みと第22話
「む!中彩!大丈夫か!」
煉獄さんが私を追ってトイレで吐く私の背中をさすった。私は震える手で鼻水と口元をトイレットペーパーで拭いて慌てて水を流す。吐いたのはほとんど水だったが、臭いが気になる。煉獄さんに朝から汚いものを見せるわけにいかない。頭がガンガンと痛む。
「だ、大丈夫れす…」
水が流れる音とともに私が精一杯笑うと、煉獄さんは急に深刻そうな顔をした。心配そうに私の顔を見て腕を組む。少し考えたあと頷き、そして
「休め!!!!」
と大きな声で叫んだ。狭いトイレに煉獄さんの声が反響して、ビーンという音がする。そして、くるっと踵を返して私から離れるとウォーターサーバーから温かなお湯をマグカップに入れて持ってきてくれた。私に手渡し、「ゆっくり飲みなさい」と背中をさする。
「な、情けない…」
私はうなだれる。会社に行きたくないという気持ちだけでまさか吐くとは。そして煉獄さんが持ってきてくれたお湯をトイレの床に座ったまま、すする。
「君は疲れている。疲れている時は休むべきだ。」
「でも、休んだら…」
私が口を開きかけると、煉獄さんは私の肩に手を置いて静かに首を振った。
「鬼殺隊も、怪我をしたら休む。当然のことだ。君は今日休むべきだ。」
そう煉獄さんに励まされ休む勇気が出た私は、一抹の不安を持ちながら会社の人に休みを取りたい旨連絡を入れた。会社の人は思いの外あっさりと了承してくれて、私はありがたい気持ちと申し訳ない気持ちとで電話越しに頭を下げた。私は「休めました!」と煉獄さんに笑いかける。
「もう体調は大丈夫なのか?」
「はい!休むと思ったらものすごく元気になりました!」
にっこりと笑う私に煉獄さんは少し困ったように「まったく君と言うやつは…」と笑う。安心したように胸をなでおろして「あまり心配させるな」と頭を撫でた。そんな煉獄さんに情けなさを抱きながらも、私はとにかく解放的な気持ちで背伸びをした。
「煉獄さん、朝ごはん食べましょうか!私歯を磨いてきます!」
「吐いたばかりなのに食べられるのか君は。」
「全然大丈夫です!今の私は世界で1番最強です!」
吐いたことでむしろお腹がすいてきたのだ。何より会社を休める!最高だ。罪悪感と幸福感が入り混じる。私は人生何度目かの、そして煉獄さんと出会ってからは初めてのずる休みをすることになった。
