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どうか笑って。【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】

第9章 暖かい風、熱い熱


煉獄さんとは会社の近くのカフェで待ち合わせた。もし遅れた場合、煉獄さんを外で待たせるのは忍びないと思ったからだ。だが実際は定時に上がれたので、待たせることも無く、私は早く仕事が終わった解放感と煉獄さんに会える楽しみで足取り軽やかにカフェに向かった。

私と同じように仕事を終わらせたサラリーマンやOLがぞろぞろと歩く。その川の流れのような波に乗って、私は待ち合わせ場所のカフェに向かった。カフェの前に来ると、私の姿を見つけやすいようにだろうか、煉獄さんは窓際の席に座って本を読んでいた。後ろから驚かせようかな。そんなことを考えてカフェに入ろうとした時、後ろから聞き覚えのある声をかけられる。

「麻衣じゃん。今日、飲み行かない?それに…最近してないよね、俺たち。」

元彼の島田だった。私は元彼に話しかけられてやはりドギマギしてしまう。解放的だった胸の奥がゆっくりと冷えるような、燻るような、それでいて涙が出そうな位愛しく思うような、そんな違和感がじわじわと込み上げる。

「あ、えっと今日はね…。」

島田は私の言葉を待たず距離を詰めてくる。付き合った頃、いや別れてからも何度か触れ合ったその手が私の頭に近付いて、ぽんっと上に乗った。そう、私は別れてからも都合のいい女、いわゆるセフレだったのだ。彼は私を愛していない。でも私は島田を忘れることが出来ない。やっぱり、この手を心のどこかで待っている。私は島田の目を見た。島田はどこか、そんな私の心を見透かすような色を帯びた視線を向けている。その手が私の顎におりてくる。

「すまないが、その手を退けてもらおう。」

風が吹き抜けた。そしてその声の持ち主は私の腕をぐい、と引いて自分の背中に隠すように私と島田の間に立ち塞がる。

「おっと、君は誰かな?」

「俺の名前は煉獄杏寿郎。」

島田は煉獄さんを見て珍しそうにしながら、私に視線を移す。

「麻衣の彼氏?」

「彼氏じゃないけど…」

煉獄さんの後ろに隠れる私はびくっと肩を震わせる。島田はそんな私にクスッと笑って「なにそれ」と笑った。先程までとは少し態度が違う。島田の目が怖い。煉獄さんの顔を横から覗き込むと、彼もまた真っ直ぐ島田を見る目が怖い。二人の間に異様な空気が流れる。

「用がないのなら、失礼する。」

「ちょっと待ってよ、俺は麻衣を誘ってるんだけど」
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