第9章 暖かい風、熱い熱
「斉藤少年、俺の話を聞いて欲しい。」
「いいですよ。」
俺は話した。中彩という人間のこと、先日のことがあってから自らに起きた異変のこと。自分でも言っていることが分からない部分や、やはり形容できず話せない部分があったが、斉藤少年はただ俺の話を頷きながら聞いてくれた。そしてある程度の話を済ませたところで、斉藤少年は俺の目を見る。
「煉獄先生、その中彩っていう人のことが好きなんですか?」
「好き?」
斉藤少年の言葉に俺は目の奥に火花が散る感覚を覚えた。胸の高まり、内側から溢れる熱。俺は暖かくなってきた外のひだまりと少し強い風の中で「好き」という言葉と共にそれらを振り返る。
「好きまでではなくとも、確実に煉獄先生は中彩さんを意識してると思うんですけど。」
そう言って斉藤少年は首を傾げる。俺は斉藤少年にむきなおった。
「斉藤少年の言葉どおりなのかはわからんが、俺は中彩を意識していると、斉藤少年から見てそう思うのだな!」
「はい。思いっきり意識してると思います。」
「具体的にその意識とやらを教えてくれないだろうか!!!」
「その、女性として魅力的に思っている、みたいな。この人を大切にしたい、逆にこの人を独占したいとか。」
先生本当にそういう経験ないんですか?と斉藤少年は首を傾げている。それが意識、客観的な事実として、俺は中彩を意識しているように見えている。なるほど。
「斉藤少年、それは良いことなのだろうか」
「いいこと?」
「とどのつまり、人を意識するということは。」
「相手にもよりますけど、いいことなんじゃないですか。俺も彼女と一緒にいて楽しいし、幸せだなと思うことはあります。」
喧嘩もしますけど、斉藤少年が話す表情は確かにとても良いものだった。俺は自らのこの思いを大切にするべきものなのだと悟った。
「この思いを中彩に打ち明けるべきだろうか。」
「中彩さんがどう思うかは分からないのでなんとも言えないですね。」
「そうか。」
俺は中彩に伝えたかった。自覚したこの思いを、伝えてどのような表情をするのか、中彩を見たかった。だが、あまり勧められないものなのであれば、もう少し様子を見るべきかとも思い直す。
斉藤少年に礼を言い、ともに稽古場へと戻った。