第7章 いくつもの、世界
「じゃあ、鬼滅の刃見てみますか?私も見たことがなかったので…煉獄さんと一緒に見るというのもなんかやっぱり変な感じがしますが…」
「ああ!見よう!アニメというものも気になる!」
「確か、まだギリギリ映画もやっていたはずです。」
「映画?」
「はい、無限列車編、だったかな…」
「!!!」
「もしアニメを全部見て、その時映画がまだやってたら映画も見に行きますか?」
「…ああ、そうだな。」
「…?煉獄さん?」
煉獄さんの視線がふと横に流れた。その表情は何かを悟っているような、なにか思い出しているようなそんな表情だった。私はその時ハッとする。
「煉獄さんは映画で死んじゃったのに」
花子ちゃんの言葉を思い出した。私としたことがなんということを。煉獄さんが死ぬ姿を描かれた映画を本人と見に行こうなんて無神経にも程がある。
「あの、煉獄さん…」
「中彩、君の思わんとすることは分かる。だが、心配は無用だ。今ここで俺が君といる、そこに至った理由は自分でも分からない。だが、もしかしたらこちらの世界に来たことは、俺にとって何か理由があるのかもしれない。そのためにも、俺は見る。その映画とやらもだ。」
やっぱり、煉獄さんは強い。私は小さく安堵のため息を漏らす。そしてマウスを手に取り、カーソルを動かす。
「…じゃぁ早くアニメ見終わらないとですね」
「ああ!楽しみだ!」
「それはどのように使うのだ?」とマウスとキーボードを操作する私の手を覗き込む。だが、ローマ字を理解するには流石に時間がかかるようで、目を丸くする。今度、ひらがな入力の設定にしておいてあげよう。私はそう思いながらAmazonプライムを開いた。
鬼滅の刃は主人公竈門炭治郎が怪我をした妹の禰豆子を背負って雪の深い道を歩くシーンから始まった。白い雪には所々血が滲んでいる。煉獄さんは二人を見て、「この二人がやはり主人公というものなのか」とどこか嬉しそうに、懐かしそうに、寂しそうに、そして安心したように微笑んでいた。
「竈門少年にはまだ他にこんなに多くの妹と弟がいたのだな。」
煉獄さんは炭治郎が家族の中心にいる姿、炭を持って町に降りるシーンを凝視している。炭治郎という少年になにか思うことがあるようだ。そして、炭治郎の帰り際、
鬼が出るぞ
と炭治郎を呼び止めた男の声に煉獄さんの表情が強ばった。
