第7章 いくつもの、世界
アニメは冒頭のシーンに戻った。隣の煉獄さんは画面を見て黙っている。鬼に殺された炭治郎の家族の惨劇を、まるで何度も何度も見てきたというように本当によく知っているようだ。
助けてやれなくてごめんな。と涙を流す炭治郎に、まるで鬼になった自分を制御できずに苦しむ禰豆子の涙に、煉獄さんは画面を見たまま動かない。
そして、刀を持った男が出てきた時、煉獄さんは「ほう、」と頷いた。どこか懐かしそうな表情だ。
俺が全部ちゃんとするから!!!
炭治郎が土下座をして許しをこう姿、刀を持った男が炭治郎に強い言葉で、だが、内心はとても優しい言葉で彼を鼓舞する姿、炭治郎が雪の中気を失う姿。その炭治郎を懸命に守ろうとする禰豆子の姿、禰豆子と刀を持った男が戦う姿、その間に続く刀を持った、冨岡義勇という男の考察。
「彼はああ見えて情に厚い男なのだ。きっと俺が出向いていれば、容赦なく竈門少年の妹を斬っていた。」
1話を見終わった。煉獄さんは出てこない。私は部屋の隅に立てかけてある煉獄さんの日輪刀を見た。
「煉獄さんも、この冨岡さんという方と同じように鬼を退治している鬼狩り様だったのですか」
「ああ、鬼殺隊という。」
「とても、厳しい世の中だったのですね。」
「皆がそういう訳では無い、鬼という存在を知る者と、知らざる者がいる。それだけだ。」
私はなんと言ったら良いかわからなかった。私の世界は、少なくとも私が産まれてからの世界はまるで平和で、もちろん同じ人間同士いじめがあったり、自殺があったり、多くの問題は孕んでいるけど、鬼という絶対的な敵はいなかった。目の前に現れたらどうなってしまうか、いや、どうにも出来ない。花子ちゃんのナイフを止めてくれた煉獄さんの背中を思い出す。あんな風に、人を救ってきたのが煉獄さんなんだ。この人はずっと人を守ってきたんだ。
「それはそうと、とてもよく描かれているな!竈門少年の声音まで全くよく再現されている!!!」
煉獄さんは明るく笑った。私は胸がチクッと痛んだ。迷う間もなく、煉獄さんの手を握る。
「煉獄さん、約束してください。これからどんな事があっても、一人で背負わないことを。辛い時や寂しくなった時は私に言ってください。二人で、考えて乗り越えましょう。」
煉獄さんは私の言葉に頭をわしわしと撫で、「君はいつも心配ばかりだな!」と笑うのであった。
