第7章 いくつもの、世界
「現に、こうして俺は君と共にいる。もっとも、吾峠呼世晴というこちらの世界の人物がいなければ、俺たちの世界がこの世界の人間に知られることは無かったかもしれない。だが、吾峠呼世晴が描かなくても、誰か他の人間が俺たちの世界を見て、描いたかもしれない。この世界とは関係なく、俺たちの世界は確かにあるのだから。」
煉獄さんは私の涙を拭う。その指先は確かに温かくて、煉獄さんがここにいるということを教えてくれる。そうだ、どうしてかは分からないけど、彼は間違いなくここにいる。信じられないことだけど、それは何にも変えられない事実だ。彼は確かに存在する別の世界から、この世界にやってきた、れっきとした人間なのだ。
「な、なんか私泣いちゃって馬鹿みたいですね恥ずかしい。私、煉獄さんがこの話を聞いたら傷つくかなって思ったんです。でもそれって、私たちの世界が全てで、煉獄さんの世界は作品で、私たちはそれを見て楽しむものだって言う思い込みがあったんです。煉獄さんの世界を本当の世界だって思ってなかった私が1番酷かった。」
「否、皆そうであろう。俺もそうだが、別の世界を見ることはとても刺激になる。そしてそもそも、中彩が初め俺の事を直ぐに別の世界の人間だと理解したことが珍しいのだ。君は賢く、良い勘を持っている。」
「いや煉獄さん知らないかもしれないですけど、私の玄関前に倒れてたんですよ。私の家のこと牢屋呼ばわりするし、この世界の人じゃありえないです。」
「その節はすまない!」
煉獄さんは大きな声で謝り頭を下げたあと、「この家は確かに俺のいた家よりも狭いが、住んでみるととても心地が良い。」と部屋を見回す。そして涙が止まった私を見て「もう他に隠し事はないか?」と笑った。
「もうないです。煉獄さん。」
「よし!!!ではそれを貰おう!!!俺のものなのだろう?」
煉獄さんは私が微笑んだのを見て満足そうにそう言うとキラキラとした目でスマホの入った紙袋を指さす。そんなに楽しみにしていたのか。私は改めて笑ってしまう。私は煉獄さんが傷つかないでくれたことに胸をなでおろし、もう少し早く伝えれば良かったとも思った。煉獄さんは、きっと私の悩みなんか笑って吹き飛ばしてくれるのではないか。私は彼を見て思う。強い彼が1人になってしまわないように、私はできるだけ彼の力になろう。そのために、私も強くなろう。
