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どうか笑って。【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】

第7章 いくつもの、世界


「煉獄さんは、その『鬼滅の刃』に出てくる登場人物なんです。」

言った。言ってしまった。正しかっただろうか、間違っただろうか。私は言ってから目の前が見えなくなる。一気に涙が溢れてきた。瞬きをする度に膝に生温いそれが落ちる。

「この世界にとって、鬼滅の刃は一つの作品なんです。皆、鬼滅の刃を知ってる人は鬼滅の刃が大好きで、煉獄さんはその中でも人気な登場人物のひとりなんです。だから、花子ちゃんや道場の皆が煉獄さんを知っていたのは、そういう理由なんです。漫画の鬼滅の刃を見て、皆煉獄さんが大好きだったから。」

私は涙を拭うこともせず子供みたいに泣いてしまった。こんな思いになるくらいなら言わないでいた方が良かったかもしれない。私は後悔した。煉獄さんの存在が、ただの漫画の中の登場人物だという事実が残酷すぎる。こんなに優しくて、強くて真っ直ぐな彼なのに。彼は誰かのための、作品のための存在じゃないはずなのに。

「…待て、なぜ中彩は泣いている?」

私はハッとする。目の前の煉獄さんは私の顔を見て不思議そうにしているだけで、何も落ち込んでいる様子がない。なんで。

それどころか、そして少し離れたところにあったティッシュ箱からティッシュを取り、私の涙を拭いた。初め煉獄さんがティッシュを見た時、「懐紙よりも柔らかいのだな!」と驚いていたのが懐かしい。煉獄さんは何よりも私が急に泣き出したことに驚いたようで、「中彩、どうしたのだ」とむしろ少し困ったように笑っている。

「え、だって煉獄さんは漫画から出てきた…」

「これは俺の持論だが、漫画というものは他の世界を映し見る鏡のようなものなのではないかと思う。」

「え?」

「多くある世界の片鱗を、この世界の一人の人間が偶然にも見ることが出来た、そしてそれを形にしたものが漫画というものなのではないか?」

「つまり…?え?」

私は煉獄さんがあまりにも淡々と話すので困惑してしまった。

「俺からすると、こちらの世界が異世界。だが、俺たちの世界ではこちらの世界を見る手段がなかった。だが、こちらの世界には俺たちの世界を見る手段があった。それだけの話だ。俺の世界は、今も変わらずこの世界と同様、同じ時を歩んでいるはずだ。」

煉獄さんの瞳には一切の戸惑いがなかった。彼の言葉に私は目から鱗が落ちる。漫画が、ほかの世界を映す鏡…?
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