第6章 心のむずかしさ
「そろそろ帰ろう。俺は、その紙袋の中身が早く見たい!」
「はは…やっぱり気になっちゃいます?」
「当然だ!!」
そう、ご飯を食べる時、煉獄さんにスマホを渡そうと思っていた。だが、ラーメン屋さんの狭いテーブルで広げるのもどうかと思い、結局まだ渡していない。家に帰ってからゆっくり教えてあげよう。きっと煉獄さんのことだからすぐに使い方を覚えるんだろうな。私は煉獄さんのこれまでの物覚えの良さを思い出して改めて頷いた。
……あれ、ちょっと待てよ。
煉獄さんにスマホを渡していいのか?…この情報化社会だ。スマホを渡したら、煉獄さんが元いた世界、鬼滅の刃という作品についてあっさり煉獄さんの耳に入ってしまうのではないか?
私としたことが、スマホを連絡手段としてしか考えていなかった。浅はかだ。インターネットという存在を忘れていた。まずはスマホを渡す前に煉獄さんに鬼滅の刃のことをうっすら匂わせて反応を伺ってからだ。煉獄さんの反応次第ではスマホは渡さない方がいいかもしれない。その時は冷蔵庫にある生チョコと中身をすり替えよう。
谷中銀座から大通りに抜ける路地裏。私と煉獄さん以外、誰もいない。今、ここで聞くか?家に帰ったらすぐ紙袋の中身を見せろと言うかもしれない。
「煉獄さん、あの…」
私は立ち止まる。さりげなく、さりげなく聞くんだ。
「む?どうした?中彩」
煉獄さんも立ち止まる。突然道端で止まった私を不思議そうに見る。私は改めて煉獄さんに話すとなるととても緊張した。どう思うだろう、どんな顔をするだろう。でも、煉獄さんが元の世界に戻るためにも、やはりいつかは伝えなければならないことだ。私は覚悟を決める。
「もし、もし仮に煉獄さんの前いた世界が…」
「!!!」
私が口を開くと、煉獄さんがはっと私の後方を見る。その表情に私も後ろを振り向く。振り向いた先には花子ちゃんがいた。もう私と触れるほどの近距離に。私は反射的に身構える。本能が危険だと予知する。
「あんたなんかいなくなればいい!!!」
大きな声が聞こえた。脳に突き刺さるような大声だった。そこからはまるで映画のように視界がコマ送りに動いた。
花子ちゃんはナイフを振り下ろしていた。
刃先は私に真っ直ぐ向けられている。
躊躇いもないその真っ直ぐな視線に私は動けない。
怖い
と思う間もなかった。
