第6章 心のむずかしさ
「煉獄先生お疲れ様でした!」
「ああ!また明日!」
煉獄さんは嬉しそうに生徒の皆や家族を見送り、空になった稽古場の鍵を閉めた。その後「少し待っていろ」と道場の鍵を返しに行き、小走りで戻ってきた。
「待たせた!」
「今日もお疲れ様でした。先生。」
「ああ!」
煉獄さんは「はっはっ」と笑いながら私の横を歩く。
結局、自宅近辺で何か温かいものを食べようということになり、塩ラーメンが人気の「ひだまり」さんに来た。食券を買って席に着く。お昼の時間から少し外れていたこともあって、いつもは賑わうお店にも待たずに入れた。
「うまい!!!」
ラーメンにもあまり馴染みが無いようだったが、煉獄さんが気に入ってくれてよかった。
「ちょっとお散歩しますか。」
「ああ!」
ラーメン屋さんを出て、谷中銀座を歩く。小さなお店が並ぶ商店街はこじんまりとしながらも活気があって懐かしい気持ちになる。
「この器、良い柄をしているな!」
とある店で煉獄さんが茶碗を持って唸った。
「私の家にある茶碗は煉獄さんにとっては小さいので、その器買って帰りましょうか。」
煉獄さんはたくさんご飯を食べる。茶碗が私の使うものと同じ大きさのため、何回も何回もおかわりをするのだ。大きい茶碗であれば、一度に多く盛れるので私も楽だと少し無粋な思いもあった。
「うむ!そうするとしよう!」
私が茶碗を持ってお金を払いに行こうとすると、煉獄さんは私を手で制して茶碗をレジに持って行った。
「お金…」
「今の道場に行くことが決まった際、道場の師範に前金を頂いたのだ。」
煉獄さんが野口英世を持っている…!私は何故かそれだけの事なのに物凄く感動してしまった。ドライヤーの使い方も知らなかった煉獄さんがこの世界に適応している…!私はしみじみと煉獄さんがお買い物をする様子を見た。煉獄さんは袋を受け取り、「待たせた!」と笑った。
「俺が道場に来てからまだ日が浅いが、入道希望者が殺到しているらしい。その分、賃金も多めに頂けることになった!道場も増築して、今より多くの者を迎えるらしい!」
「楽しみだ!」と笑う煉獄さんに、「道場の先生ってどれくらいお金もらえるの?」と何気なく聞いたら、煉獄さんはあっさりと教えてくれた。その金額は私が1ヶ月に稼ぐそれをゆうに超えていて、雷に打たれたような衝撃が走ったのは内緒である。
