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どうか笑って。【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】

第6章 心のむずかしさ


道場がある場所から地下鉄に乗り、またも上野広小路。私はスマホの契約をしにショップに来ていた。煉獄さんのスマホは、私と同じキャリアの私と同じ機種にした。毎月の請求や、煉獄さんがスマホの使い方を聞いてきた時、同じ機種の方が何かとやりやすいと思ったからだ。

「映画で死んじゃったのに」

私は手続きを済ませ契約の最終確認をしながら、先程の花子ちゃんの言葉を思い出していた。

煉獄さんが死んだ…?

煉獄さんの耳を塞ぐのに精一杯でうろ覚えだがそう言っていた。煉獄さんが…?と、とりあえずこれはいい、置いておこう。とりあえず煉獄さんは今生きている。とする。問題は「映画」という単語だ。煉獄さんに聞かれただろうか。耳は塞いだが、間に合っただろうか。

私は考える。彼は自分がこの世界の鬼滅の刃という作品から来たということを知った時、どう思うだろうか。

彼らの世界が、私たちにとって一種の娯楽、作品に過ぎないということを知った時、私は煉獄さんがどう思うか。そこまで考えて怖くなった。煉獄さんがどんな表情をするのか予想がつかない。だが、もし逆の立場で、私のこの日常がほかの世界の単なる娯楽で、作品で皆が楽しむためのものだとしたら、私は自分の存在についてどう考えるだろうか。

「きっと傷つく…よね…」

初めて会った夜、煉獄さんの身体に無数の傷がついていたことを思い出した。鬼滅の刃の連載はジャンプだ。ジャンプということは、ギャグ漫画など一部の作品を除いて、戦闘シーンがある。少年漫画だから。偏見かもしれないけど少年が楽しめるよう、その傾向があるはずだ。

「…今までも何度か命をかけて戦ったことがある。」

目が覚めて煉獄さんが私の家から出ていこうとした時、彼はそう言った。何の躊躇いもなく、そう言った。煉獄さんは鬼滅の刃という作品の中で、命をかけて戦っていたのだ。だが、それが、他の世界にとってはただの娯楽だったら?

説明されている目の前の契約書が滲んだ。おかしい、どうしたのだろう。涙が出てきた。涙が私の視界をゆがめて、前が見えない。目の前の店員さんが少し怪訝そうにこちらを伺っている。私は一度強く目を閉じ、ゆっくりと開いた。

後だ。今はとにかく、用事を済ませて道場に戻ろう。しっかりしろ、私。

なんとか契約の手続きを済ませた私は、店員さんに入った紙袋を受け取り、ショップを後にした。

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