第5章 おおさわぎ
「あの!」
ふと、後ろから声をかけられた。振り向くと、女の子が立っている。とても可愛い女の子だった。年齢は私よりも少し若い、大学生くらいだろうか。
見たところ、道場の生徒ではないらしい。が、私をやや怪訝そうに、むしろ若干の敵意を含んだ視線を向けていて、私はいずれにせよその視線が好意的ではないことを察して、私は胸がざわつく感覚を覚えた。私何かやらかしただろうか。初対面のはずだけど…
「お姉さん、煉獄さんと知り合いなの?」
何とも気まずい空気の後に女の子は私にそう告げた。
「えっと…知り合いというか、えっと知り合い…」
女の子の問いかけに私はうろたえてしまう。知り合いと言っていいのだろうか。知り合い、うん。
「煉獄さんなんだよね?あの人、本物の。」
「え、そんなわけないじゃないですか…あはは」
「とぼけないで。」
女の子の視線が光る。今度は明らかに私を軽蔑するような、明らかな敵意を含んだ視線だ。私は怯んでしまう。
「煉獄さんが2次元から来たんだよね?そうだよね?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて…」
「どこにいたの、なんでお姉さんと一緒なの。煉獄さんは、ううん、杏寿郎は私のものなのに。」
なるほど、この子は鬼滅の刃の煉獄さんのファンで、煉獄さんが好きで、煉獄さんと一緒にいる私が気に食わないのか。なるほど。どうしよう。何とか誤魔化した方がいい。ここで下手に事実を伝えたらどうにもならない。
「落ち着いて、彼は煉獄って自分で名乗っているだけで髪だって染めてるしカラコン入れてるし、とにかく煉獄って名前でもないし」
「俺は煉獄杏寿郎だ!!!」
私が女の子に話していると、稽古場から出てきた煉獄さんが話に割って入ってきた。
おおおおーい
「あっ、杏寿郎///」
女の子はうっとりと煉獄さんを見つめて明らかにもじもじとする。女の子だ。女の子の表情だ。煉獄さんは私を見たあと、隣にいる女の子に気づいて「何だ?」とハキハキと返事をした。女の子はすっかり大人しくなって煉獄さんをじっと見つめている。じゃなくて、人が頑張って誤魔化してたのになんてことを…
「何を話していたのだ?戻りが遅いから具合が悪いのかと心配したぞ!」
煉獄さんは私に近づいてくる。
「れ、煉獄さん、ちょっと静かに…」
私は煉獄さんの背中越しに見える女の子の視線が怖くて震え上がった。
