第5章 おおさわぎ
「皆、俺の名を知っていたようだった!」
「そ、そうだったんですね」
「だが、政府非公認の組織である鬼殺隊の認知度が高いことは妙だ。」
「きさつたい…?」
「ああ、中彩には言っていなかったな!俺はここに来る前は、鬼殺隊という組織で炎柱をしていた。」
「えんばしら…?」
「はっはっはっ!まあよい、中彩!おかわり!」
大変だ、鬼滅の刃を知らないことで、いよいよ支障が出そうな気がする。それにこのTwitterでのトレンド入りを見ると思いのほか悠長に構えてはいられない気がした。
「あの、明日煉獄さんの行かれてる道場に私も行っていいですか?」
私はおかわりのご飯を煉獄さんに渡しながら、できるだけ自然に伝えた。
「構わん!」
「煉獄さん、他には何か生徒さんに言われましたか?」
「ああ、『煉獄さんが好きなのか?』『完成度が高いこすぷれ、握手して欲しい』というものが多かった。」
「は、はは…」
「『君たちの言うことの全ては分からないが、煉獄 杏寿郎は俺だ!』と言っておいた!」
「は、はは…」
煉獄さんは相変わらず真っ直ぐとしていて、何の心配もして無さそうだった。全く嘘は着いていない、ついてないけど会話が成り立っているのが不思議だ。だが、嫌な予感がする。このまま放置は危険な気がする。
私は会社の人たちに「急遽のお願いで大変恐縮ですが、明日終日、私用によりお休みさせて頂きたく存じます。」とスマホからメールを打った。休みやすい会社でよかった。皆には申し訳ないけど、何かあってからでは遅い。
私は会社の人にメールを送ったあと、手に握るそれを眺める。そうだ、スマホ…煉獄さんとの連絡手段がない。スマホが必要だ。これから道場に行くのであれば家にいないことも増えるだろう。緊急事態にも備えて用意しておかなければいけない。明日道場を見学したら少し中抜けして契約をしに行こう。
「中彩がくるのであれば、一層鍛錬に気合いが入るな!」
「なんか稽古がものすごく大変とも噂になってますよ」
「む、確かに以前も継子が気づいたらいなくなる事があった!」
「つぐこ?」
「はっはっはっ」
聞きなれない言葉が多く戸惑うが、煉獄さんが何やら楽しそうだったので私もそれ以上話に水をさすのはやめた。煉獄さんはまた空になった茶碗を私に渡し「おかわり!」と言った